東京大学は,豪ニュー・サウス・ウェールズ大学,豪RMIT大学,米ニューメキシコ大学との共同研究により,2次元クラスター状態の生成に世界で初めて成功した。(ニュースリリース)。
現在主流の量子コンピューターの開発方式はゲート方式と呼ばれ,まず量子ビットを1個ずつ作製し,それらを組み合わせて計算するために量子ビットの間を配線した上で,量子操作を順に行ないながら計算を実行する。
実際に,ゲート方式に基づいて,超伝導回路やイオントラップを用いた量子コンピューター開発が進められている。しかし,この方式では量子ビットの数が増えれば増えるほど,量子ビット間の配線が複雑化されていくことがボトルネックとなり,大規模化へ技術的な限界が見え始めつつある。
今回,研究グループは,ゲート方式とは異なる一方向量子計算方式に注目。その最重要要素である2次元クラスター状態を生成するために,時間領域多重の技術を使った新しいセットアップを考案した。さらに,この新しいセットアップによって生成された2次元クラスター状態の構造を利用して効率的に計算を行なう手法も理論的に考案した。
あらゆる量子計算のパターンを重ねあわせた状態である汎用的な量子もつれ2次元クラスター状態を用意することができれば,それを構成する各量子ビットを測定するだけでどのような量子計算も行なえるため,ゲート方式のような量子ビット間の配線は必要ない。
その結果,生成された2次元クラスター状態は25,000光パルスの大規模量子もつれになり,それを用いて5入力・5,000計算ステップの任意の量子計算が実現可能であることがわかったという。
研究グループは今後,クラスター状態を実際の計算に使うために必要な要素技術を開発し,それをこの研究成果と組み合わせることで,このクラスター状態を使った量子操作の原理実証を進める。
同時に,技術的なレベルを更に発展させ,クラスター状態の質と計算に使える入力数・ステップ数も増やしていく。ステップ数は現在でも実質的に無限であり,入力数は最先端技術を使えば1万個程度までの増加が見込めるという。
また,現状のクラスター状態の生成システムをチップ化することも視野に入れて,常温で動作する量子コンピューターチップへの研究も進めていく。
研究グループは,今回の成果は現行の主流の量子コンピューターのアプローチで見えてきた大規模化へ向けた課題を克服できる新たな方向性を示し,量子コンピューターの分野に大きな変革をもたらすことが期待できるものだとしている。