首都大ら,伝導層を有する層状超伝導体を発見

首都大学東京と山梨大学は,ビスマス,銀,スズ,硫黄,セレンからなる伝導層を有する新しい層状超伝導体La2O2Bi3Ag0.6Sn0.4S5.7Se0.3(転移温度Tc=3K)を発見した(ニュースリリース)。

2次元的な層状構造を有する化合物は,高温超伝導や熱電変換などさまざまな機能性を示すことが知られている。機能性だけでなく,2次元的な電子状態に起因する特異な物理現象が発現しうることも2次元的な層状構造を有する化合物の特長で,これまでにない特性を持つ新しい層状化合物の発見が望まれてきた。

研究グループは,2017年にLa2O2Bi3AgS6という新規層状化合物を合成し,2018年に低温(Tc=0.5K)で超伝導転移を観測した。

La2O2Bi3AgS6は4枚の(Bi,Ag)-S面を有し,BiS2系層状化合物LaOBiS2を2層型とすると,4層型と呼べる新規層状超伝導体。しかし,当時は転移温度が0.5Kと低く,測定できる物理量が限られるため超伝導転移の詳細を議論することができなかった。

そこで,研究グループはLa2O2Bi3AgS6系の転移温度(=Tc)を上昇させるための元素置換効果を検証した。その結果,La2O2Bi3AgS6のAgサイトをSnで一部置換することで,Tcが2K(物性測定の幅が広がる温度域)を超えることを見出した。あわせて,超伝導転移温度上昇に伴い電気抵抗の温度依存性で確認された異常が低温側にシフトする現象を観測した。

この現象は,Sn置換によりLa2O2Bi3AgS6系の電子状態や局所的な結晶構造が変化し,超伝導転移温度上昇につながったのではないかと考えられるという。

一方,磁化率の温度依存性から見積もられる超伝導体積分率は20%と低く,試料が完全な(バルクな)超伝導体に転移するには至っていないことがわかった。

2層型のBiS2系超伝導体においては,イオン半径の異なる元素を用いて元素置換を行ない,化学的な圧力を加えることで,超伝導特性が向上した。

そこで,Sn置換によりTcが最大となったx=0.4の組成に対し,SサイトのSe部分置換を試みた。SeはSと同じ-2価状態をとるが,大きなイオン半径を持つため化学的な圧力を加えることに効果的となる。5%のSeをSで置換すると,バルク超伝導転移が約3K以下で観測された。

研究グループは,今回の結果は4層型のビスマス系層状化合物がバルク超伝導を示す初めての発見となり,これを発端として,4層型伝導層を持つビスマス系層状化合物における機能性材料開発が加速することが期待できるとしている。

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