大阪大学,中央大学,日本大学の研究グループは,物質に等価なブラックホールの姿を直接観測する方法を明らかにした(ニュースリリース)。
超弦理論の分野で近年急速に発展しているホログラフィー原理により,「ある種の物質はブラックホールと等価な物理的性質を持つのではないか」と考えられるようになってきた。例えば,高温超伝導体など電子が強く結合する物質は,ブラックホールと等価な性質を持つ可能性がある。しかし,その等価性を直接検証する方法はわかっていなかった。
今回の研究では,天文学における「ブラックホールの直接観測」を応用し,物質上でのブラックホール描像の存在を実験的に確かめる方法を提案した。
宇宙空間において,星がブラックホールの背後にある場合,星からまっすぐ観測者の方向に向かって飛ぶ光は,ブラックホールに吸い込まれてしまい観測者には見えない。しかし一般相対性理論によると,光さえも重力で曲げられるので,観測者はブラックホールを回り込んできた光を見ることになる。このような重力レンズの効果により,ブラックホールの縁にリング状に広がった光源の像が観測できる。
このリングはアインシュタインリングと呼ばれており,今回の研究の核となった「ホログラフィー原理が成り立って物質系がブラックホール描像をもつならば,このアインシュタインリングも量子多体系の物理量から構成できるはず」というアイデアを元に,量子多体系の観測量をアインシュタインリングに変換する公式を発見し,実際に画像化することに世界で初めて成功したという。
研究グループは,今回の研究で提案した手法を用いて,ブラックホールに対応する物質を見つけることができれば,卓上での小規模物性実験でブラックホールのさまざまな性質を解明することが可能になり,特に,量子重力理論の解明に向けた大きなステップになることが期待できるとしている。