筑波大学,新潟医療福祉大学の研究グループは,キック泳中のスイマーの下肢の動きとその周りの流れを初めて三次元的に計測し,可視化することに成功した(ニュースリリース)。
スイマーは,非定常状態,いわゆる乱流のような水の流れを推進に利用して水中を移動できているため,この非定常状態の流れがスイマーの推進メカニズム解明のカギがあると考えられてきた。
しかしスイマーの手足に働く力については,これまで直接測定する手段がなく,防水型圧力センサーを手足に貼り付ける方法などが用いられてきたが,力の大きさがわかっても,力の方向やその原因にまではわからなかった。
今回の研究では,競泳レースのスタートとターン後に行なわれる潜水泳技術である水中ドルフィンキックに着目し,このキック泳中のスイマーの下肢の三次元動作解析と,その周りの水の流れを三次元的に可視化することを試みた。
回流水槽を用いて,モーションキャプチャーシステムとステレオPIVシステムで,スイマーの動作と周りの水の流れを同時に計測することにより,流れの三次元可視化できた。具体的には,解析の段階で座標変換と条件付き加算平均という方法を組み合わせることで,複数の流れ場をスイマーの後流側に配置し,流れを三次元化した。
PIV法とは,水流にトレーサ粒子を混入させ,計測領域をレーザーシートで照射し,これを撮影装置で記録する。異なる2時刻の記録画像から,コンピューター画像処理で速度ベクトルを計算し,各点の流れの方向や大きさが分かる流れ場を得ることができる。ステレオPIV法では2台のカメラで記録するため,3成分(u,v,w)の速度ベクトルを計算することができる。
その結果,イルカのように単に両足を上下に振って泳いでいると思われていた水中ドルフィンキックは,推進するための重要な局面で下肢の捻り動作(内・外旋)を行なっていたことがわかった。
研究グループは,今回の研究で開発した流れの三次元的な可視化手法を用いれば,カメラ撮影のみで,流れの情報からスイマーが得た推力の大きさを計算できるようになるとしている。