産業技術総合研究所(産総研)は,菱江化学,東海精密工業,伊藤光学工業と共同で,現在主流の二色性色素偏光シートよりも高耐久で,透明性が高く,反射率を従来のワイヤーグリッド偏光素子の51%から1/10以下に低減したワイヤーグリッド偏光素子をシート状に形成した低反射率・高耐久性ワイヤーグリッド偏光シートを開発した(ニュースリリース)。
従来のワイヤーグリッド偏光素子は,偏光度が高い,透過率が高い,薄い,といった特長を兼ね備えているが,緻密に成膜された金属を用いているため反射率が高く,その用途は液晶プロジェクターなどに限られていた。
研究グループは,耐久性の高い金属を用いたワイヤーグリッド偏光素子の低反射率化によって,低反射率で高耐久性の可視光用偏光シートを実現することにした。
そのためには,可視光用のワイヤーグリッド偏光素子には可視光の波長(400nm~800nm)よりも十分に細い幅のワイヤー構造が求められる。ワイヤー構造を細く,厚くすることでその偏光特性を高めることができるので,これまでに研究グループが実証してきた80nmよりも細い線幅のワイヤー構造が必要となる。
今回,新たにナノインプリント技術・ぬれ制御技術・印刷技術をうまく融合させて,線幅50nm以下,アスペクト比10以上の金属インクパターンが形成できる厚膜ナノ印刷技術を開発し,表面に凹凸を付与することなどで偏光度99%,反射率4%の高耐久性偏光シートを実現した。
プロセスとしては,ストライプ形状の凸構造を持つモールドを用いてナノインプリント技術により樹脂シートに溝を形成する。次に,ブレードを用いて溝部分だけに金属インクを充填する。最後にオーブンで焼成して,ワイヤーグリッド偏光シートを作製する。すでに75mm角の偏光シートを形成する技術を確立しているが,より大きな面積のモールドを用いることでさらなる大面積化も可能だとしている。
研究グループは今回開発した技術により,従来のワイヤーグリッド偏光素子の特長を活かしつつ,反射率を低減できたとし,また,耐熱性,耐湿性,耐光性,耐スクラッチ性も備えているため,これまで応用が難しかった眼鏡業界,自動車業界などへの展開も期待できるとしている。