浜松ホトニクスは,レーザー媒質を効率よく冷却する技術を確立し,半導体レーザー(LD)励起では世界最高となる117Jのパルスエネルギーを出力する産業用パルスレーザー装置を開発した(ニュースリリース)。
CWレーザーは,溶接や切断などの熱処理に利用できるためレーザー加工の主流となっている。一方,パルスレーザーは,瞬間的に高いエネルギーを照射することで生じる衝撃波を利用し金属材料を硬くするレーザーピーニングへの応用が進められ,出力10J程度のパルスレーザー装置が導入されはじめている。
そのような中,高出力のパルスレーザーを広い範囲に照射し,材料の深いところまで衝撃波の力を加えることでさらにレーザーピーニングの効果を高めるため,より高出力なパルスレーザー装置への期待が高まっていた。
レーザーの出力を高めるには,レーザー媒質を効率よく冷却する必要がある。開発品は,チャンバー内にマイナス100度で5気圧のヘリウムガスを安定的に循環させ,媒質の両面を冷やす機構を取り入れることで冷却効率を向上させた。同時に,レーザーが通過する光学窓に低温,高圧に耐える材料を採用するとともに構造設計を工夫し耐久性を高めている。
また,新たに設計を最適化した光を蓄えやすい円盤型の大口径セラミックスをレーザー媒質として6枚組み込むことで,従来装置よりも多くのエネルギーを効率よく蓄積できるようにした。さらに,小型で高出力の同社製励起用LDモジュールを搭載するとともに,独自に考案し設計を工夫した増幅器を構築することにより小型化に成功した。
この結果,海外で開発が進められているLD励起のパルスレーザー装置と同等の占有サイズで,世界最高の出力を実現した。この装置により,レーザーを照射した金属材料に対し,より深いところまで力を加えることで,航空機や自動車の金属材料を硬くするレーザーピーニングの効果をさらに高めることができると見込んでいる。
また,TACMIコンソーシアムと連携し加工プラットフォームとして運用することで,レーザーフォーミングや塗装剥離などの新たなレーザ加工の実用化が進むと期待している。
なお,この装置は,4月22日(月)~26日(金),パシフィコ横浜で開催される,光・フォトニクス国際会議「OPIC2019」において発表する。