大阪大学の研究グループは,空間光変調器(SLM)に表示したバーチャルな位相グレーティングとフィルタリングを用いたビーム整形において,除去成分と抽出成分の空間分布を最適化し完全分離するスキームを開発し,これによってフラットトップ矩形ビーム形状のエッジ立ち上がり20μmを達成し,さらにリップルの無い均一な強度分布を実現した(ニュースリリース)。
高品質なフラットトップ矩形ビームは広範な領域においてニーズが存在する。ビーム整形法は静的な手法と動的(アダプティブ)な手法に分けられ,前者は屈折率分布を用いる手法,マイクロレンズアレー,DOEなどがあり,入力ビームを所望するビーム形状に分配する。しかしこれらはビーム整形精度に難があり,さらに整形後の波面が無秩序になる問題があった。
一方動的な手法として,空間光変調器(SLM)による位相グレーティングと4f光学系におけるフーリエ面での空間周波数領域フィルタリングと像再生を行なう手法が開発された。これは,位相グレーティングの回折効率を空間的に制御することで矩形フラットトップビームに整形する方法であり,さらに波面を乱さず制御も可能という特長がある。
位相グレーティングが重畳したビームはレンズによってフーリエ変換され,回折光である除去成分はフーリエ面においてカットされる。しかし,従来法では抽出成分のフーリエ変換像と除去成分が重複し,抽出成分の高周波成分(中心から遠い成分)をカットせざるを得ず,ビーム整形精度の悪化が避けられなかった。
研究グループは,バーチャルな斜め位相グレーティングを用い,抽出成分と除去成分をフーリエ面において空間的に完全分離した。これにより,高周波成分を含んだ抽出成分のみを効率的に取り出すことで高精度なビーム整形を可能とした。
実際に,リップルの無い均一な強度分布を持つフラットトップ矩形ビームへの整形に成功した。ビーム形状のエッジ立ち上がり20μm(改善前の1/5,パッシブな回折光学素子の数十分の1)を達成し,あらゆる従来法を越えたビーム整形精度と波面精度を両立することに成功した。
この成果によってビーム形状を高精度に最適化することが可能となり,レーザーを用いる基礎研究や製造技術,医療(スキンセラピー),超高強度レーザー応用(加速器,核融合)など広範な領域に貢献することが期待されるという。また,既に同種のビーム整形を利用している装置においては,SLMに表示する位相グレーティングとフィルターを変更するだけで,ビーム整形精度を格段にアップデート出来るとしている。