静岡大学はバタフライ効果において,量子論的な発熱現象が起こるという理論予測を立てることに成功した(ニュースリリース)。
量子論的な発熱現象とは,ブラックホールや超音速流体,相対論的加速運動といったかなり限られた状況において起こると考えられている特殊な現象。
特にブラックホールにおける量子論的な発熱現象はホーキングによって予言されたもので,例えば質量Mのブラックホールは,ホーキング温度と呼ばれる次の温度Tを持つと考えられている。図(式1)で,hはプランク定数,cは光速,πは円周率,Gはニュートン定数,kはボルツマン定数となる。この式の重要な点として,温度がプランク定数hに比例する点が挙げられる。
プランク定数とは量子論の効果の大きさを現す定数で,温度がプランク定数に比例するということは,この発熱現象が完全に量子力学的な効果に起因することを示している。しかし,ブラックホールにおける熱的性質の起源は厳密には理解されておらず,これを解明することは現代物理学最大の課題の1つに挙げられている。
そこで,量子的な発熱現象について様々な研究が行なわれ,実はブラックホールのほかにも,超音速流体や相対論的加速運動などの特殊な状況において,量子論的な発熱現象が起こることが解明された。今回の研究もこれらの研究と関連し,量子論的な発熱現象に関して理解を深める目的で行なわれた。
今回の研究は,量子論的な発熱現象が,バタフライ効果という日常的にありふれた現象においても起こることを予言するもの。ある物理現象におけるバタフライ効果の大きさを示す指標として,リヤプノフ指数と呼ばれる量がある。このリヤプノフ指数をλとすると,バタフライ効果が起こる際に,少なくとも,図(式2)という温度を持った発熱現象が起こりうることを今回の研究は示した。
この温度はブラックホールにおけるホーキング温度と同様にプランク定数hに比例し,この発熱現象が純粋な量子効果に起因することを示している。また,このようなバタフライ効果における発熱現象は,ブラックホールの量子効果と密接な関係を持つことも今回の研究では示した。
研究グループは,バタフライ効果における量子論的な発熱現象で発生する温度は非常に低く,物質が元々持っている温度の影響よりもずっと小さいため,これまで観測されることはなかった。今後はこのような発熱現象を実際に実験で測定し,確証を得ることが課題となる。また,今回の研究により,量子論的な発熱現象の理解が深まったことで,今後,ブラックホールの量子論的な性質の解明が進む可能性があるとしている。