東大,液体シリカの特異な散乱ピークを解明

東京大学は,FSDP(First Sharp Diffraction Peak)が,液体中に生成される局所的正四面体構造の内包する電子密度の周期に起因することを発見した(ニュースリリース)。

シリカやシリコンといったネットワーク形成物質をX線散乱や中性子散乱で解析すると,共通した散乱ピークが観察される。一番長波長側のピークは,FSDP(First Sharp Diffraction Peak)と呼ばれ,広く知られてきた。

しかし,FSDPの起源をめぐっては,結晶のフラグメント,特異なかご状または層状構造,化学種の異なる原子の特異な準結晶的構造など,さまざまな説が提案されてきたが,何十年にもわたりコンセンサスがないまま混とんとした状況が続いてきた。

今回,研究グループは,シリカを中心にシミュレーションを行ない,液体中に生成される局所的正四面体構造の密度波による散乱が,このピークの起源であること,さらに,高次のピークも正四面体構造に特有な他方向の密度波により説明可能なことを明らかにした。

これまで,水を含めたこれらのネットワーク形成液体の構造が,熱揺らぎの下で,「ある1つの構造の周りに幅広い分布を持つのか」あるいは,「正四面体的構造と乱れたランダムな構造といった2種類の構造の動的な混合物であり,その結果2つの構造の存在を反映して2つのピークを持った分布を示すのか」について,実験的に検証可能な正四面体構造形成の直接的証拠が存在しなかったため,長年論争が続いてきた。

今回の研究結果は,X線散乱・中性子散乱により直接測定可能なFSDPが,正四面体構造特有の密度波に起因していること,またその強度が,研究グループが微視的な構造指標を用いて独立に求めた液体における正四面体構造の占める割合と比例していることを示した。

実際,今回の研究により,シリカの液体中には,温度低下に伴い,エネルギー的により安定な正四面体構造がより多く形成される直接的な証拠が得られた。これにより,「シリカに代表されるネットワーク形成液体は,乱雑な構造と規則的な局所構造が動的に共存した状態である」という二状態モデルに基づく現象論の妥当性が,微視的レベルで示されたといえる。

研究グループは,シリカ,シリコン,ゲルマニウム,カルコゲナイドなど正四面体構造を形成する物質群は,身近にあり極めて重要であり,今回の研究成果は,これらの液体が示す特異的な性質の理解に大きく貢献し,地球科学,半導体科学など広範な分野に波及効果が期待できるとしている。

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