科学技術振興機構(JST),山形大学,ブイ・テクノロジーは,FPDの画素点灯を制御する薄膜トランジスタ素子(TFT)のチャネル領域のみをレーザーアニール処理することでTFT素子を高速化した(ニュースリリース)。
現状,特に大型テレビ向けFPDはTFT素子の半導体材料にa-Si膜が使われている。しかしアモルファス状態は電流が流れにくいことから,高精細な画像表示には不利だった。a-Si膜の数十倍から数百倍の電子移動度を持つポリシリコン膜はレーザーアニール処理によって作られるが,ランニングコストが高く,大型テレビ向けには採用が難しかった。
ブイ・テクノロジーでは,a-Si膜のTFT素子を使う大型テレビ向けFPDの製造工程向けレーザーアニール技術を開発しているが,課題が複数残っていた。
具体的には,①レーザー光源の低ランニングコスト化,②レーザー光のコヒーレント性による光干渉の抑制,③レーザーアニール処理時のレンズ系の汚染対策,④ガラス基板上のa-Si膜にバラつきなどがあっても一定のTFT素子性能を確保するレーザー照射条件の制御方法など。
特にTFT素子性能のバラつきは完成したTFT素子の電気特性を測定して評価されるため,不具合対策のフィードバックにタイムラグが生じるという問題があった。
これに対し,①・②は,検討した固体レーザーでは量産に必要な仕様を達成できないと判断し,干渉性が低く,大出力対応が可能なエキシマレーザーを採用した。③のマイクロレンズ(MLA)光学系への汚損問題に対しては,汚染物質の検証を行ない,MLA光学系を最適化した。
④の解決には,レーザーアニール処理したポリシリコン膜の結晶状態のリアルタイム検出とレーザー光源へのフィードバックが重要だった。今回,ポリシリコン膜の結晶化レベルとその電子移動度との相関を初めて実証し,リアルタイム結晶モニターシステムを開発,実用的な精度を持つことを確認した。
これらによってレーザーアニール処理直後に結晶化レベルを測定してポリシリコン膜の結晶バラつきを検出・把握し,その後のガラス基板に対するレーザーアニール処理条件に反映することで,このバラつきを補正できるリアルタイム結晶モニターシステムを実現した。
今回,大型テレビ向け局所レーザーアニール装置に,開発したリアルタイム結晶モニターシステムを実装し,実際のガラス基板に対する検証を終えたという。
この装置により,高画質対応のFPDパネルの製造が可能になることに加え,パネル周辺に配置されていたゲート駆動用ドライバーICなども回路内に作り込めることから,狭額縁化や低コスト化にもつながる。さらに,TFT素子をオンラインで把握できることから,品質向上や歩留まり向上にも貢献するとしている。