筑波大ら,非対称核分裂をめぐる謎を解明

筑波大学は,オーストラリア国立大学と共同で,原子力エネルギーの源である核分裂反応の数値理論的解析を用いて,分裂片として生成される核種にキセノン周辺の元素が大量に含まれている理由を解明した(ニュースリリース)。

原子力発電のエネルギーは,アクチノイドと呼ばれる核種(重い原子核)の核分裂を用いて取り出される。核分裂現象には多くの謎があり,分裂する際にほぼ等しい大きさの原子核2つに分裂する場合(対称核分裂)と,大きさが異なる2つの原子核に分裂する場合(非対称核分裂)が観測されているが,エネルギー的に必ずしも得をしない非対称核分裂が起こる理由は解明されていない。

筑波大学と理研の研究グループは,核分裂を起こすような重い原子核の記述で必要とされる対凝縮機構を,時間依存BCS理論を用いて取り入れる手法を開発してきた。今回研究グループは同様の理論手法を用いて,スカーム型のエネルギー密度汎関数を用いた世界最先端の計算を実行。原子核が分裂する様子を計算機上でシミュレートし,核分裂がどのように進行しているのかを調べた。

その結果,非対称核分裂の分裂初期の段階で作られた八重極変形(洋ナシ型変形)が,分裂する直前にも分裂片のそれぞれに引き継がれていることが分かった。しかも,大きい方の分裂片がキセノンとその周辺の原子核に対応している。すなわち分裂直前の段階においては分裂片同士が引き合うために,このような八重極変形した原子核が出現する。すると,このような形においてエネルギー的に得である原子核が作られる。

実際に,周期表でキセノンのそばに位置するバリウム(原子番号56)の原子核144Baは,八重極変形を引き起こしていることで有名な核種で,様々な実験及び理論的な研究により,この周辺の原子核の多くも八重極変形していることが示唆されている。一方,この領域から離れると,原子核を八重極変形させるためには大きなエネルギーを必要とするため,バリウムやキセノンといった原子核が分裂片として選ばれるという。

これまで非対称核分裂においては,原子番号50の錫の原子核が持つ陽子数50の殻効果が重要なのではないかという示唆があった。丸い原子核の場合,錫の原子核は確かにエネルギー的に得をするが,なぜ錫よりもキセノンを核分裂では多く作り出すのかという疑問が残っていた。今回の研究はこの説を覆し,バリウム領域の八重極変形した原子核の存在が非対称性の起源であるという新説を提唱するもの。

研究グループは,今回の研究により,核分裂片としてどのような元素(原子核)がどのように生成されるかを解明することは基礎科学の域を越えて,様々な応用において大きな意義があるとしている。

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