東北大学と国立環境研究所は,葉1枚での実験を通じて,リモートセンシングによって観測可能な光学データから植物の光合成速度を高精度で推定する新しい手法を開発した(ニュースリリース)。
光合成の過程ではクロロフィル(葉緑素)という色素が光を吸収する。クロロフィルは,光を吸収して,そのエネルギーを光合成系に利用する役割をもっているが,吸収した全てのエネルギーを光合成のみに利用することはできず,一部のエネルギーは熱として放散されたり(熱放散),再び光となって放出される。
この再放出される光がクロロフィル蛍光で,太陽光の下では,人工衛星「いぶき」及び後継機の「いぶき2号」のセンサーのような波長分解能の高い精密な分光放射計により観測することができる。これまでクロロフィル蛍光から光合成速度を推定する研究では,熱放散の効果を単純化していたため,不確実性が高いことが指摘されていた。
一方,熱放散については,植物が反射する波長531nm(緑色の光)の光の強さを指標化した「光化学反射指数」により評価することが可能だとされている。非熱放散型と熱放散型では 531nm の光の反射率が違うため,この波長の反射率の変化を解析することで熱放散へのエネルギー分配を推定できる。研究では,クロロフィル蛍光と光化学反射指数を併用することにより,熱放散へのエネルギー分配を推定し,光合成速度の推定に利用するという手法を開発した。
まず,光合成,クロロフィル蛍光の強度,熱放散,光化学反射指数の関係を,従来の植物生理学的な知見を応用して,生化学的な理論に基づいた数式で表した。次に,このモデルの実証のための実験を行なった。
実験では,シロザを実験植物として温度や光環境,CO2濃度を変化させた環境で,葉1枚のスケールでの光合成,クロロフィル蛍光,光化学反射指数の同時観測を行なった。そして,それらの結果からクロロフィル蛍光と光化学反射指数の両方を用いることで高精度で光合成速度を推定できることを実証した。
将来的には,「いぶき2号」が広域の光合成速度の高精度推定に寄与することにより,今後の温室効果ガスの吸収・排出量推定の精緻化に大きく寄与することが期待でき,パリ協定の着実な実施に対する日本の貢献にも繋がるとしている。