産業技術総合研究所(産総研)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)は,窒化ガリウム(GaN)ダイオードとシリコン(Si)整合回路を混成したHySIC(Hybrid Semiconductor Integrated Circuit)構造の整流回路により,マイクロ波から直流への電力変換動作を世界で初めて実証した(ニュースリリース)。
宇宙機では,安全で確実なミッション遂行のため,各所に取り付けたセンサーにより機体や装置の状態を常時監視する技術が必須。センサーへの駆動電力供給法としては,軽量化や耐久性向上の観点から無線給電技術が有望だが,空間を伝播するマイクロ波を直流電力に変換する整流回路が必要である。
整流回路にはダイオードが用いられるが,宇宙空間においては地上の約100倍~1000倍の頻度で宇宙線が到来するため,一般に採用されているSiなどのダイオードでは高い頻度での誤動作や破損が予測される。そこで今回研究グループは,宇宙線に対する耐性を向上させるため,ダイオードの部分には宇宙線に対する耐性が高いGaNを採用することにした。
一方,マイクロ波を効率良くGaNダイオードへ入力するための整合回路の部分はほとんど配線であるため,宇宙線による誤動作の影響は小さいことから,量産が容易なSi回路を用いて,小型軽量化と低コスト化が可能なHySIC整流回路を開発した。
これまで,電力変換効率を最大とするためのSi整合回路の設計手法に課題があったが,GaNダイオードのデバイス構造とマイクロ波領域に適した測定方法と伝送線路特性の補正技術の組み合わせを新たに見いだし,GaNダイオード単体のインピーダンス特性を高確度で測定することで,高機能のHySIC整流回路を実現するためのSi整合回路の設計が可能となった。
このHySIC整流回路は100mW級の直流電力を得ることを目標とし,出力電力が100mW級の際にGaNダイオードとSi整合回路のインピーダンスが整合状態となって,電力変換効率が最大となるよう,Si整合回路の基本パターンを設計した。
さらに,シミュレーションにより,基本パターンを基に入力電力などが変動した際の電力変換効率への影響を解析してSi整合回路のパターンを改良し,高い変換効率で安定した整流動作を実現したことで,HySIC整流回路を世界で初めて動作させることができた。GaN/Si HySIC整流回路は,宇宙線への耐性が高いだけでなく,高電力・高電圧での電力伝送を可能にし,高効率の高速充電が実現する可能性があるという。
研究グループは今後,開発したHySIC整流回路を高性能化し,宇宙機内の無線給電を実用化することで,将来の宇宙開発へ貢献するとしている。