海洋研究開発機構(JAMSTEC)は,日本放送協会(NHK)と共同で,深海用8Kスーパーハイビジョンカメラ(U8K-SHVカメラ)の開発に成功し,深海底熱水域の超高精細映像を取得した(ニュースリリース)。
これまで深海に適用されてきた海中カメラ技術はハイビジョンカメラが主流だったが,通常のハイビジョンカメラから得られる画質(解像度)では海底環境や生物あるいは鉱物等の詳細を正確に把握することは限界があった。一方,映像レベルの高度化には,海中における大容量光伝送技術の高速化に加え,カメラ光学系および海中光学伝搬(照明技術)に至る各海中光学技術に対する最適化が不可欠だった。
そこでJAMSTECは2014年より,世界最高解像度(ハイビジョンカメラの16倍の解像度)を提供する8Kカメラ技術を深海仕様として組み込む「U8K-SHVカメラ」の開発をNHKと共同で進めてきた。
超高解像度性能のカメラ技術を深海環境にて発揮させるため,深海プラットフォームへの実装を可能とし,取得した映像をリアルタイムで船上まで伝送すべく,カメラ光学系・光伝送技術・海中光学伝搬(照明技術)およびこれらを組み合わせた最適な撮影手法を含む各技術項目について統合的に取り組んできた。
カメラ光学系においては,撮像素子と被写体間にある各媒質境界(レンズ,空気,耐圧ビューポート,海水)に起因する光軸屈折を評価・保障し,合わせて海中における光学伝搬特性(赤色波長光の減衰)を担保する新たな深海用照明装置の開発にも取り組んだ。加えて,「U8K-SHVカメラ」から出力される大容量データを深海から船上まで高速かつ高品質で伝送する光伝送技術(100Gb/s光伝送装置)についても新たに開発を進めた。
この「U8K-SHVカメラ」を深海無人探査機「かいこう」に搭載し,小笠原海域(水深約1,300-1,400m)の深海底において性能評価した結果,8Kカメラが備えるべき超高解像度性能を有していることが確認された。
併せて,「U8K-SHVカメラ」に最適な深海照明を適用することにより,深海における光学的特性が保障され,これまで取得されたことのないマクロからミクロまでの超高精細な深海映像の撮影にも成功したという。これは「U8K-SHVカメラ」と船上とを結ぶ「かいこう」を経由した約10kmにおよぶ長距離光伝送路において,大容量かつ高品質な高速光通信が確立されたことを意味する。
研究グループは今後,各光学技術の最適化に加え,深海利用を考慮した撮像素子そのものの高度化を図るとともに,深海環境における超高精細映像の取得から管理までを船上(現場)にて一元的に実施する統合的なシステムの確立を目指す。