東大ら,深海の底生生物の分布を非破壊で可視化

東京大学,海洋研究開発機構,産業技術総合研究所は,深海の堆積物中に生息する底生生物の分布を非接触・非破壊で効率的に調査できるツールを開発し,有人潜水調査船を用いてその実証試験に成功した(ニュースリリース)。

地球上に広がる海洋空間の95%以上を占める深海には,多様な底生生物が生息しており,炭素や窒素などをはじめとする物質循環や生態系サービスを維持する上で極めて重要な要素と考えられている。

深海生態系への環境影響を評価するためには,底生生物の分布や多様性などの定量化が不可欠だが,その多くは海底下に潜っている埋在性生物であることから,その生物相や環境動態をモニタリングするための有効な技術が無かった。

そこで研究グループは,新しいコンセプトの海底調査ツール(A-core-2000: Acoustic coring system)を開発した。このシステムは,高周波の集束型超音波センサと専用の防水モーターを搭載した2軸フレームで構成されており,250mm×250mmの範囲を500kHzの周波数の音を海底に連続的に照射しながら2mm間隔でスキャンニングし,海底下を高い解像度で3次元的に可視化することができる。

今回,海洋研究開発機構が所有する有人潜水調査船「しんかい6500」にA-core-2000を搭載し,相模湾西部の深海(水深851-1237m)に広がるシロウリガイコロニー周辺において,その実証試験を実施した。

シロウリガイの幼体は,成体と違い,殻が完全に海底下に潜った状態で生息するため,これまで光学カメラなどでは確認することが困難だったが,実証試験において,幼体を含む約17個体のシロウリガイの空間分布とそのサイズを可視化・定量化することに成功した。

このシステムを用いることで,海底下に分布する二枚貝など埋在性の底生生物を可視化することができるようになり,これまで把握が困難であった,海底下における埋在性生物の分布を定量化できるようになる。また,この手法は非破壊・非接触での継続的な観測が可能であることから,時系列にその分布を把握することも可能。

研究グループは,このシステムを用いた深海の大型埋在性生物の調査とその空間分布の把握は,深海底生態系が地球規模の物質循環に果たす役割を理解する上で極めて重要な情報を与えるものであり,今後は,資源・エネルギー開発や気候変動が底生生物に与える影響の把握や地球化学的な物質循環の理解,水産資源の分布調査などに応用する予定だとしている。

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