富士通と富士通研究所は,気象レーダーなどのパワーアンプ(増幅器)に適用可能な窒化ガリウム高電子移動度トランジスタ(GaN HEMT)において,大電流化と高電圧化を同時に達成する結晶構造を開発し,マイクロ波帯の送信用トランジスタとしては従来比3倍の高出力化に成功した(ニュースリリース)。
GaN HEMTは高周波パワーアンプのトランジスタとして,レーダーや無線通信などの長距離電波用途に広く利用されている。今後は,集中豪雨を観測する気象レーダーや,第5世代移動通信方式(5G)向けミリ波帯無線通信にも利用されると予想されている。
トランジスタの出力を向上するには,大電流かつ高電圧で動作する必要がある。窒化インジウムアルミニウムガリウム(InAlGaN)系HEMTは,トランジスタ内部の電子密度を高めることができ,大電流化に寄与するとして研究が進められている。しかし,電圧をかけた際に,電子供給層の一部に過度に電圧が集中し,トランジスタ内部での結晶破壊を誘発するという問題があった。
今回,開発した高抵抗のAlGaNスペーサ層を挿入すると,これまですべての電子供給層に集中していた電圧が,トランジスタ内部の電圧を電子供給層とAlGaNスペーサ層に分散できる。電圧集中が緩和した結果,電子供給層における結晶破壊が避けられることで,100ボルトまでの動作電圧向上を実現する。これは,このトランジスタの電極距離を1cmにした場合,30万ボルト以上の動作電圧になることを意味するという。
窒化インジウムアルミニウムガリウム(InAlGaN)系HEMTに,今回開発したAlGaNスペーサ層を適用することで,これまで両立が困難であった大電流かつ高電圧動作を実現する。さらに、両社が2017年に開発した単結晶ダイヤモンド基板接合技術を適用し,効率よく放熱することで安定稼働を可能にする。実際に測定したところ,ゲート幅1mmあたり世界最高出力となる19.9ワット(従来比3倍)を達成した。
両社は2020年度に,気象レーダーや5Gなどへの適用に向けた,高出力な高周波GaN HEMTパワーアンプの実用化を目指すとしている。