東海光学と生理学研究所の研究グループは,青色光をカットするカラーレンズの防眩効果を脳反応から客観的に計測する手法を開発した(ニュースリリース)。
強い光を受けた際の痛みや不快感などの「まぶしさ」は羞明(しゅうめい)と呼ばれ,眼疾患だけでなく,精神疾患や片頭痛など,多くの疾患における症状として知られているが,羞明の詳細な神経メカニズムはほとんど解明されていなかった。特に,どれぐらい「まぶしい」のかを,定量的かつ客観的に評価することは非常に難しく,「まぶしさ」を緩和するためのカラーレンズの色や濃度の選択は,患者の主観によって決められている。
研究では,健常ボランティア10名を対象に,視感透過率を70%に揃えた青,黄色,緑,灰色のレンズと,無色レンズの5種のレンズを装用してまぶしい光を見た時の視覚誘発磁界(VEFs)を,脳磁場計測器(脳磁図: MEG)を用いて計測し,神経活動を評価した。
計測結果を多信号源解析で分離して解析したところ,黄色レンズでは網膜電図(ERGs)のb波に相当する活動の振幅が小さく,潜時が遅くなり,この潜時はレンズ各色の450nmの透過率と高い相関を示した。一方,黄色レンズ装用によって一次視覚野と紡錘状回の活動が,他のカラーや無色レンズと比べて大きくなった。これらは,黄色レンズを装用することで,まぶしい光を見た時に網膜でまぶしさが緩和され,脳の視覚野では良く見えていることを示唆している。
「まぶしさ」を低減するためには、単に光の透過率を下げれば良いという考えもあるが,レンズの色を濃くし過ぎると見え方が悪くなる。研究で観察された「網膜活動の遅延」と「大脳視覚野の皮質活動増加」といった二つの現象は,今後「まぶしさ」と「見え方」を客観的に評価する指標として活用できると考えられるという。
今回の成果は,「まぶしさ緩和」と「見え方向上」を両立する眼鏡レンズやコンタクトレンズ,ディスプレー,照明のフィルターなどの開発の一助となるもの。特に眼鏡レンズでは,より効果的に「まぶしさ」を緩和しつつ「見え方」を改善するレンズカラー開発への応用が想定されるとする。またこの手法を用いることで「まぶしさ」の感じ方について,個人ごとの特性を取得することができるようになるという。
現在,研究グループでは,この研究と並行して簡易脳波計システムの研究開発を進めている。この装置と組み合わせることで,「まぶしさ」の個人特性から眼鏡レンズ等の製品仕様を決定し,ニューロテイラーメイドで個人に合わせた製品を提供していくことが可能になり,快適・安心安全な眼鏡レンズの提供に繋がる。
さらに、簡易脳波計を用いた「まぶしさ」に関する個人特性は,少ない被験者への負担で取得できるように研究開発が進められているため,子供や発達障害などの場合の見え方(感覚特性)の理解にも貢献していくとしている。