理化学研究所(理研),新潟大学,東京大学らの研究グループは,水溶性化合物を用いた組織透明化の化学的原理の体系化に向けて,求められる透明化パラメータ(脱脂・脱色・屈折率調整・脱灰)の包括的なプロファイリングに基づいた合理的手法を開発した(ニュースリリース)。
従来の透明化技術の開発戦略は,偶発的な発見および小規模な化合物群の場当たり的な組み合わせによる最適化に依存しており,化学種の多様性を網羅できておらず,個々の化合物が持つ固有の化学的性質が考慮されていなかった。組織透明化技術がさらなる飛躍・発展を遂げるためには,学術的に確かな化学的理論の構築に資する,包括的アプローチに基づく開発戦略が望まれていた。
研究グループは,2014年に発表したマウス全脳透明化/3次元的イメージング技術「CUBIC」において開発した組織の「脱脂」効率の評価系となるin vitro(試験管内)スクリーニング手法を参考に,組織透明化に求められるパラメータである「脱色」「屈折率調整」「脱灰」について,同様のスクリーニング手法を開発。そして,水溶性が期待される約1,600種類の化合物の水溶液を調整し,その手法でスクリーニングした。
その結果,①脱脂には塩を含まないオクタノール/水分配係数の高いアミンが効果的であること,②脱色にはN-アルキルイミダゾールが効果的であること,③屈折率調整には芳香族アミドが効果的であること,④脱灰にはリン酸カルシウムのリン酸イオンのプロトン化が重要であることを見いだした。
さらに,各パラメータにおいて最適化されたケミカルカクテルを統合した一連の新しい「CUBIC」プロトコール(手順)を開発することで,マウスの各種臓器および骨を含むマウス全身,ヒト組織を含む大きな霊長類サンプルの高度な透明化に成功した。
研究は,組織透明化の化学的原理を体系化し,それぞれのパラメータに対して重要な化学的性質の抽出に成功したという意味で,組織化学的に極めて意義の大きな成果であると考えられる。この研究を基盤とした化学的根拠の明確なアプローチによる合理的な開発戦略は,これからの新たなスタンダードとなることが期待できるとしている。