東京大学の研究グループは,標的物質の濃度勾配を形成するための機構を実装したマイクロ流路を内蔵するチップを新規に開発し,デジタルバイオ計測の超並列化を実現することに成功した(ニュースリリース)。
半導体製造技術により,生体分子と親和性の高いマイクロチップが開発され,それらを基盤とした革新的なバイオ分析技術が実現している。中でも,デジタルバイオ計測は,マイクロチップを利用して,1個の生体分子から機能や物性を高感度かつ定量的に計測できる。しかし,最大の課題として計測のスループットの改善がある。計測に利用するマイクロチップは数万個以上の試験管を集積化しているが,サイズが小さいためにそれらを並列利用することは技術的に難しかった。
研究グループは,デジタルバイオ計測の超並列化を実現するため,マイクロチップ上の各試験管に異なる組成の溶液を封入する新規技術の開発とこれを用いたデジタルバイオ計測法の確立を目指した。具体的には,標的物質の濃度勾配を形成する機構をマイクロチップへ実装し,チップ上の各試験管に異なる組成の溶液を封入する技術を開発した。そして,酵素や膜たんぱく質を対象とし,超並列デジタルバイオ計測を実現することに成功した。
開発した技術では,1種類の希釈液を数秒間導入するだけで,異なる組成の水溶液を試験管に封入することができ,計測の準備時間の大幅な短縮を実現した。さらに,1本の流路と電動ピペットがあれば実験ができるため,分析装置への実装の際,コスト削減にも期待されるという。
生体分子の反応に伴い蛍光を発する基質を利用すると,蛍光強度の増加速度から生体分子の反応速度を定量的に測定することができる。今回,1枚のマイクロチップから,さまざまな基質濃度における反応速度を並列測定することに成功し,基質の結合速度定数などの性能を評価するために必要不可欠な基礎データを,簡便に取得できるようになった。
また,生体膜を各試験管に実装しているため,酵素だけでなく,市販薬の主な標的である「膜たんぱく質」におけるデジタルバイオ計測の超並列化にも応用できることも実証した。この技術により,さまざまな生体分子を標的とした機能評価に関して,超並列計測の実現によるデジタルバイオ計測のハイスループット化の第一歩を確立したとしている。
従来,デジタルバイオ計測は高感度かつ定量的なバイオ分析基盤だったが,今回のハイスループット化の実現により,基礎・応用研究における汎用性が大幅に拡張された。今後,薬剤標的の探索,薬効の評価,早期疾患診断,およびバイオセンサーの評価などへのデジタルバイオ計測技術の実用化が期待されるという。