東大ら,光励起による超高速原子変位の観測に成功

東京大学,岡山大学,独マックスプランク研究所は共同で,時間分解電子線回折法(Ultrafast Electron Diffraction: UED)を用いて,これまでにない超高速の原子位置の変化(原子変位)を観測することに成功した(ニュースリリース)。

原子間の結合は,強い光照射や電場などにより壊れる場合があることが知られている。原子間の結合が壊れたり再生したりする過程を解明することは,物質の光・電場制御などの新機能の探索や,光・電場による破壊などの物性評価を行なう上で重要になる。

しかし,原子の動きは非常に高速であり,結晶構造を形成する原子結合の変化をリアルタイムで捉えるのは,一般的な実験手法では困難とされてきた。近年では極めて短い時間幅(10-13秒程度)のパルスをもつレーザーとその周辺技術の飛躍的な進歩により,非平衡状態における物質の構造変化をストロボ撮影のようにして直接観測する手法が開発されてきた。

研究では,時間分解電子線回折を用いてイリジウムダイテルライド(IrTe2)の結晶構造のダイナミクスを調べた。IrTe2はイリジウム原子同士が非常に強く結合し,それにより250ケルビン(-23℃)以下の低温において元々の結晶周期とは異なる新しい周期の構造(超構造と呼ぶ)が重畳して形成されている。

ここで用いた時間分解電子線回折とは,パルスレーザーを電子銃に照射することによりパルス電子ビームに変換し,これを用いて試料の電子線回折像をストロボ撮影することにより結晶構造の動的な情報を調べることのできる手法。時間分解電子線回折によりIrTe2の結晶構造の時間変化を調べた結果,他の物質群ではこれまで報告されたことのない約200フェムト秒という超高速の原子の位置変化(原子変位)が光照射の直後に生じる様子を直接観測することに成功した。

これは,イリジウムの原子結合に由来する超構造が超高速で崩壊し,再構成されることを意味する。更に,時間分解光学測定により得られる電子構造の情報及び,密度汎関数法による解析を組み合わせて考察することにより,この原子結合に寄与するイリジウムの特定の電子軌道(dxy軌道)が光励起により直接変調されることで,超高速な原子変位が引き起こされる新しいメカニズムを提唱した。

この成果により,光励起により超高速で結晶構造を別の状態へ切り替えることができる超高速スイッチングや原子結合の光制御などに向けた応用展開の可能性が期待されるという。この研究を礎に,物質の隠されたダイナミクスをより詳細に調べることで,今後の物質科学を大いに発展させていくことが期待されるとしている。

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