産総研ら,半導体中の電荷分布を可視化

産業技術総合研究所(産総研)と筑波大学は,産総研が独自に開発した薄膜トランジスタ(TFT)の電荷を可視化するゲート変調イメージング技術を大幅に向上(空間解像度:810nm→430nm,時間分解能:3µs→50ns)させ,多結晶性半導体中の結晶粒界付近で電荷が不均一に分布する様子や,結晶粒界が電気伝導を阻害する様子を可視化した(ニュースリリース)。

電子デバイスのスイッチング制御を担うTFTの大面積・軽量・フレキシブル化や,製造工程の簡略化・省エネルギー化には多結晶性半導体薄膜を用いることが有効であり,その開発,性能向上,製造技術の確立が課題となっている。しかし,多結晶性半導体薄膜は無数の微結晶で構成されて不均質なため,新しい評価技術が求められていた。

TFTのゲート電極に電圧をかけると,半導体層に蓄積した電荷により,光反射率・透過率がごくわずか(~0.01%)変化する。ゲート電圧をかけた状態(駆動状態)とかけていない状態(停止状態)の光学イメージを積算して,微小なイメージの変化(ゲート変調イメージ)を得る。今回,高い開口数(NA=0.95)の対物レンズを導入し,波長670nmの入射光を用いて約430nmの空間解像度を得た。

さらに,大気環境によるTFTの劣化を防ぐため,入射光に対して透明な高分子薄膜でTFTを封止する方法を導入した。これにより,大気に対して不安定な半導体でも,レンズ前面から試料表面までの距離(作動距離)が著しく短い高開口数の対物レンズを用いた測定が可能になる(今回用いた対物レンズの作動距離は0.2mm)。

ゲート変調イメージの測定を行なったところ,ゲート変調イメージでは,正と負のゲート変調信号の分布は不均一であり,微結晶の形状と相関していた。正と負のゲート変調信号の起源を明らかにするため,それぞれの位置で入射光の波長を変えてゲート変調信号を測定したところ,多結晶性半導体の不均質な構造に起因して,電荷分布が著しく不均一であることがわかった。

また,光学顕微鏡像とゲート変調イメージとの比較から,微結晶の内部よりも結晶粒界に近い部分の電荷密度が相対的に高いことがわかった。これは結晶粒界には電荷の流れを妨げる効果があるため,電荷が捕捉されて電荷密度が高くなっていると考えられるという。

ナノ秒オーダーのスナップショットを撮影できるイメージインテンシファイアを測定装置に導入して,TFTが定常状態に達する前の過渡状態のゲート変調イメージを測定したところ,電荷が拡散的に伝導していると分かった。詳しく解析すると,電荷の流れが結晶粒界や微結晶内部の電荷トラップによって過渡的にせき止められていた。これは結晶粒界や電荷トラップが電気伝導を阻害することを初めて直接捉えたもの。

研究グループは,今回開発した技術の特長を生かし,TFTだけではなく太陽電池や二次電池など,多様なデバイスへの展開を進めていくとしている。

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