東京工業大学,慶應義塾大学,自然科学研究機構分子科学研究所は共同で,超短パルス光により生成した40THzの周期で原子が集団振動するダイヤモンドのコヒーレント光学フォノンの量子状態制御に成功し,その理論モデルを構築した(ニュースリリース)。
ダイヤモンドの光学フォノンは,40THzの高い周波数を保つために室温でも熱的な擾乱を受けにくいことから,フォノン量子状態は室温で動作する量子メモリーへの応用が期待され,研究が行なわれてきた。
研究グループは,10fs以下のパルス幅をもつ近赤外光を用いた時間分解透過光強度測定を行なった。ポンプ(励起)パルスを照射することでコヒーレント光学フォノンを励起し,それによって引き起こされる物質内の分極を,時間を遅らせて照射するプローブ(計測)パルスの透過率変化として検出した。
次に,励起パルスをこれまでに製作した高精度干渉計を用いて,時間差が制御されたパルス対をダイヤモンドに照射した。パルス対の時間間隔を変化させることで,発生するコヒーレント光学フォノンの量子状態を制御することができた。
実験結果では,第2パルス励起後の透過率強度が,第1パルス励起後に比べて237.9fsでは振幅が小さくなり,251.4fsで振幅が増大していることがわかった。また,振幅だけでなく位相も変化していることも分かった。
この現象を説明するために,振動準位を2準位,電子準位を2準位の合計4準位レベルのモデルを考え,光と物質の相互作用に関してフォノンの生成・制御・計測過程まで含めた計算を行なった。その結果,ガウス関数型パルス波形を仮定した計算で,実験結果を良く再現することができた。
理論計算から,今回の実験結果は,コヒーレント光学フォノンが第1パルスで励起される量子状態と第2パルスが励起されるコヒーレント光学フォノンの量子状態の干渉によるものであり,ダイヤモンドのコヒーレント光学フォノンに対するコヒーレント制御が実現されたことが示された。
研究グループは今後,照射する光電場波形を計測・制御することにより,光学フォノン生成・制御・計測過程を実験的に明らかにすることができるとする。これらの知見を基にして,ダイヤモンド光学フォノンを利用した室温で動作する量子メモリー開発への応用にもつながるとしている。