筑波大ら,同時多色発振する有機レーザー結晶を開発

筑波大学,東京大学,産業技術総合研究所,仏ストラスブール大学は共同で,π共役系分子マイクロ結晶からの同時多色レーザー発振に成功した(ニュースリリース)。

有機マイクロ結晶は,結晶端面における光の反射により光を結晶内部に閉じ込めて共振させることが可能で,マイクロレーザー共振器としての応用研究が活発に進められている。

光励起によるレーザー発振特性の発現において,発振閾値の低減する方法として,エネルギー移動(FRET)を介して励起エネルギーを捕集し,エネルギー受容性分子の効率的な反転分布状態を形成する方法が提案されている。

しかしながら,エネルギー供与性分子とエネルギー受容性分子を望みの割合で混合した有機結晶を作成することは通常困難であり,有機結晶におけるFRETレーザーの実現や,レーザー発振閾値の低減についての検証は十分に進められていなかった。

研究グループは,発光効率が高く光耐久特性に優れたπ共役有機分子である,炭素架橋オリゴフェニレンビ
ニレン(COPV)を用いてマイクロ結晶の作製を検討した。その結果,エネルギー供与性のCOPV2とエネルギー受容性のCOPV3を混合したマイクロ結晶が形成可能であることを見出した。

作成したマイクロ結晶は,弱い励起光照射下では,COPV2からCOPV3へのFRETがマイクロ結晶内部で効率的に起こることが確認された。

一方,フェムト秒レーザーによる強励起下においては,COPV2,COPV3それぞれからなる結晶において,内部
に発光が閉じ込められて誘導放出によるレーザー発振が観測された。しかしながら,混合結晶においては,COPV3の混合割合を増やしてもCOPV2からCOPV3へのFRETは起こらず,COPV2からのレーザー発振が起こることが明らかになった。

詳細な時間分解発光計測より,レーザー発振の速度定数が,FRETの速度定数より20倍程度も大きく,その結果,FRETに先行してレーザー発振が起こることが明らかになった。また,混合比を調整することで,2つの振動準位間から同時にレーザー発振が起こることを見出した。

さらに,このマイクロ結晶は,銀薄膜表面で結晶が直立して成長する。この状態で光励起を行なうと,基板への光の漏れ出しによる光学ロスが低減し,その結果,結晶が寝た状態に比べて,レーザー発振閾値を4分の1程度にまで低減できることを明らかにした。

この研究結果から,有機マイクロ結晶を用いてFRETレーザーを実現するために,次の2つの方法が提案されるとする。①レーザー発振より速くFRETを起こす超高速FRET系の分子を用いてマイクロ結晶を作成する。②エネルギー受容性分子側のレーザー発振閾値を低減し,FRET後に速やかにレーザー発振が起こるようにする。

今回,マイクロ結晶から多色のレーザー発振が可能であることが示された。今後,このような有機マイクロ結晶光共振器を用いた微小レーザーデバイスの実現と応用が期待できるとしている。

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