新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は,産業技術総合研究所,パナソニックセミコンダクターソリューションズ,北海道大学とともに,アナログ抵抗変化素子を用いたAI半導体向けの脳型情報処理回路を開発し,世界最高水準の低消費電力動作の実証に成功した(ニュースリリース)。
現在,AIを活用した家電やロボットが登場し,今後はさらに身の回りの電子機器へのAI実装が進むと予想されている。しかし,AIにおける学習の処理は演算量が膨大で消費電力が大きく,ユーザー機器(エッジ)側で処理することは容易ではない。
現状,大量処理が可能なサーバー群で構成するクラウドシステム側でAIを搭載しエッジ側はクラウドの処理結果を受け取るだけ,もしくは,学習処理をクラウド側,推論(実行)処理をエッジ側で分担して行なっている。
今後,エッジ側で推論処理のみならず学習処理を実装することができるようになれば,個人情報をクラウドに上げることなくプライバシーに配慮したAI学習を進めたり,個人の端末でリアルタイム映像データ解析処理を可能としたり,さらには,エネルギー分野や交通分野などの社会インフラの分散制御・高度化にも広く波及して行くものと期待される。
今回,研究グループは,アナログ抵抗変化素子(Resistive Analog Neuro Device:RAND)を用いたAI半導体向けの脳型情報処理回路を開発し,世界最高水準の低消費電力動作の実証に成功した。
脳型情報処理回路では多階調の学習データ保存が動作の鍵を握るが,線幅180nmプロセスで開発したRANDでは,30μAのダイナミックレンジで,ほぼ全てのデータが,目標値の±2μAの範囲内に設定できるという良好な制御性を示した。
この結果,RANDによる脳型情報処理回路の文字認識率は90%を超え,実用化への道筋が確立された。さらに線幅40nmプロセスで開発したRANDのテストチップでは,セル電流の低電流化に成功し,66.5 TOPS/W(Tera Operations per Second per Watt)という世界最高水準の低消費電力動作を確認した。これは,AI半導体の「エッジ学習・推論兼用」という新カテゴリを築くのに十分な値だという。
研究グループでは今後,この技術をチップ実装する際の制御性や信頼性の向上を図ることで,全く新しい基本回路構成を持つ脳型AI半導体の実用化を進めていくとしている。