東京大学の研究グループは,セレン化ガリウム結晶から発生した光の高次高調波を詳しく解析することにより,高調波の偏光状態がバンド分散の曲率の異方性によって決まることを見出した(ニュースリリース)。
近年の極短パルスレーザーの発達により,10MV/cmを越える高強度電場を試料に加えることが可能となった。その結果,高次高調波と呼ばれる,入射光の整数倍の周波数を有するコヒーレント光の放射が観測されている。高次高調波は,光電場と物質との相互作用の結果として発生するため,物質のミクロな性質を強く反映する。そこで,高次高調波を詳しく調べることにより,電子バンド構造を決定できる可能性が示されてきた。
しかし,これまでの研究では物質と光電場共に1次元的に取り扱っており,3次元の自由度を有する試料と2次元の偏光状態を有する光電場の相互作用を記述するには不十分だった。
今回,開発した波長が5ミクロンの高強度中赤外レーザーを,セレン化ガリウム結晶に集光することにより,発生した高調波の偏光を,入射電場の平行な成分と直交する成分に分け(偏光分解),結晶を5度ずつ回転させることで,結晶の方位依存性を測定した。その結果,偏光状態と試料のバンド曲率の異方性を結びつけることに成功した。
将来的には,発生した高次高調波の偏光状態に加えて,時間波形を測定することにより,バンドの形状を再構築することが可能になると期待されるという。さらに、バンド構造決定において全光学的手法を用いることができれば,従来用いられている光電子分光を適用できない,高圧力,高磁場,高電場下の極限状態や,過渡的な状態でもバンド構築が可能になるとしている。