九州大学は日産化学工業とともに優れた電気光学特性と熱安定性を持つポリマーの開発を,アダマンド並木精密宝石とともに超高速光変調器のモジュール開発を進め,従来技術の無機系光変調器では困難な光データ伝送の高速化と低電圧制御に成功した(ニュースリリース)。
イーサネット光伝送規格の総伝送速度は年々増加の傾向にあり,先端的な光通信デバイスの研究開発の中で,近年,電気光学ポリマー光変調器への期待が高まっている。すでに開発が進んでいる無機系や半導体系光通信デバイスに比べて,高速性は理論上非常に高いとされ,消費電力や製造コストの観点からも将来の光通信デバイス技術として注目されている。
ポリマー光変調器による超高速の光データ伝送は,これまでも世界的に報告されてきたが,実用化のためには熱安定性などデバイス信頼性の大幅な向上が必要とされ,産業界からも強く望まれていた。
今回研究グループが合成した物質は,ニオブ酸リチウムなどの無機結晶に比べて変調速度が2~3倍と,高い電気光学特性を持ち,低電圧で光変調できることが分かった。また,電気光学ポリマーは理論的に100GHz以上の応答特性を持つことが示唆されており,無機系・半導体系光変調器では到達が困難な超高速レートのデータ伝送の実現も期待できるという。
今回の光伝送実験では,OOK方式で1秒間に56ギガビットの光信号を発生,PAM-4方式で1秒間に112ギガビットの光信号を発生することに成功した。また,動作電圧を1.5ボルトに抑えることができた。さらに研究グループは,ガラス転移温度が180℃以上の電気光学ポリマーを合成することに成功し,光変調器の熱安定性についても課題を克服した。
研究の超高速,省電力,熱安定性を兼ね備えたポリマー光変調器の実現は世界で初めてであり,今後,省エネルギーや低コスト化が望まれる通信デバイス分野での利用に期待できるという。また,ポリマー光変調器の作製は,簡便な塗布技術でできるため,シリコン光集積技術との融合も可能であり,小型・超高速・低消費電力の新しい光技術の創出も期待されるとしている。
現在の光通信技術において,100ギガビットを超える光信号の発生は,複数の光変調チップを並列で用いた(25ギガビット×4台など)伝送方式が用いられている。このような方式はデバイス制御が複雑であり,製造コストや消費電力の増加に対する課題も生じている。電気光学ポリマーを用いれば,1チップで100ギガビットを超える高速化も実現可能であることから,研究グループではさらなる高速変調の実現に向けて研究を進めている。