東京大学と高知大学は共同で,光学顕微鏡とハイパースペクトルカメラを使って,カロテノイドやクロロフィル(葉緑素)の分布を可視化することに成功した(ニュースリリース)。
ヘマトコッカス藻はアスタキサンチンを産生することで有名な淡水産の単細胞微細藻類。アスタキサンチンは養殖魚などの「色揚げ」に使われているほか,強い抗酸化活性をもつことから化粧品,健康食品産業でも注目されている。
研究グループは,ヘマトコッカス藻を強光に曝露すると,カロテノイドのうちアスタキサンチンだけが5〜10分という短い時間で細胞中心部から細胞膜直下に移動し,葉緑体を日焼けから守るシェードのようにアスタキサンチンが覆い,ヘマトコッカス藻の全体が赤い細胞になることを発見した。また,全体が赤くなった細胞を弱光下に置くとアスタキサンチンは細胞の中心部にゆっくりと戻る。
カロテノイドのなかで,細胞膜の直下に移動して日焼け止めのシェードになるのがアスタキサンチンだけであることは,画像を分光できるハイパースペクトルカメラを使って明らかにした。アスタキサンチンは水には溶けないので,アスタキサンチンが細胞膜の直下に移動するということは油滴が細胞膜の直下で葉緑体全体を覆うことを示している。
細胞を押しつぶして葉緑体を外に飛び出させて観察すると,アスタキサンチンが溶け込むことで赤くなった大小の油滴が葉緑体を取り囲んでいることがわかった。葉緑体内部にはアスタキサンチンを含む赤い油滴が流れる隙間がたくさんあり「火星の運河」のように見えることもわかった。
さらに,細胞を急速に凍らせて割って中身を見るフリーズフラクチャー法で電子顕微鏡観察すると,アスタキサンチンが溶け込んだ油滴が葉緑体の間を通って細胞膜の直下に集まることが確かめられた。
これにより,ヘマトコッカス藻はアスタキサンチンを用いて光の強弱に対する巧妙な適応戦略を発達させ,強光回避をしていることが明らかになった。今後は,光の強弱で反応する油滴の運動の力の源とその制御メカニズムを明らかにする必要があり,そうすることで強光を避けて暮らす小さな細胞の生きざま(強光回避戦略)を明らかにできるとしている。