大阪市立大学と米カリフォルニア大学リバーサイド校は共同研究において,光照射方向を変えるだけで,可逆的かつさまざまな形状に変形する微小な有機結晶を世界で初めて発見した(ニュースリリース)。
光を外部刺激として駆動するフォトメカニカル材料は,電気配線や回路を必要とせず,非接触で遠隔でも操作が可能なため,次世代材料として注目されている。フォトメカニカル材料としては,フォトクロミック化合物から構成される液晶性ポリマーやゲルがあるが,研究グループでは,より硬く,強度のある“結晶”に注目している。
研究グループが2007年,ジアリールエテン結晶の光照射による可逆的な結晶形状変形および屈曲を報告して以降,さまざまなフォトクロミック化合物の結晶のフォトメカニカル効果が研究されてきた。しかしながら,それらの挙動のほとんどが屈曲であり,より複雑な動きを示すフォトメカニカル結晶の探索が求められていた。また,複雑な動きを示すものであってもその動きが不可逆である,あるいは結晶形状変形の種類が一つに限られているという点が課題となっていた。
研究では,代表的なフォトクロミック化合物であるジアリールエテン結晶のフォトメカニカル効果について,光照射方向を変化させるという新たなアプローチからフォトメカニカル挙動の制御を試みた。
その結果,アリールエテンからなるリボン状結晶に紫外光を照射すると,Helicoidタイプのねじれ,角度をつけて光照射するとCylindrical helixタイプのねじれ(らせん),真下方向から光照射すると,少しねじれを伴ったBending(屈曲)が起こることがわかった。このように同一の結晶に照射する光の方向を変えることで,フォトメカニカル挙動のモードを制御することに成功した。
この研究は,フォトメカニカル結晶の新たな可能性を見いだしたものであり,光照射条件を変えることによって,さらに複雑なフォトメカニカル効果を示す材料の開発が可能になるとしている。
今回発見されたのは髪の毛の1/10程度の大きさの微小な結晶のため,非常に小さな光駆動装置としての応用が期待できる。また,毛細血管の中も動き回ることができる大きさであることを生かし,小型医療機器や体内ロボットなど,応用の可能性は多岐にわたる。今後はこの研究で得られた知見をもとに,個々の微小な有機結晶を集積化させることで,より大きなフォトメカニカル効果を示す材料の開発を目指す。