東北大学は酸化水酸化アルミニウム組成をもつベーマイトナノファイバーで構成される,超低かさ密度かつ透明なモノリス型(塊状)多孔体を凍結乾燥で作製することに成功した(ニュースリリース)。
シリカゲル,活性炭などを代表とする,無数の細孔をもつ構造体(多孔体)は断熱材,触媒担体,電池電極材料,吸着・分離媒体など,さまざまな用途が考えられてきている。近年,三次元的に巨視的な大きさをもつ塊状(モノリス型)多孔体の中でも特にかさ密度が低い超低かさ密度エアロゲル(<5mgcm−3)の報告例が増えてきており,応用に向けた物性研究が進められている。
研究グループは,酸化水酸化アルミニウム(AlOOH)組成をもつベーマイトナノファイバー(BNF)を用いてモノリス型多孔体を作製する研究を行なってきた。特にBNFのみで作製された構造体「BNF エアロゲル」は超低かさ密度でありながら透明・低屈折率という光学特性を示すなど,他の材料ではほとんど見られない特徴的な物性をもつ。
BNF エアロゲルのように特徴的な光学特性をもつモノリス型多孔体(乾燥体)は,ゾル-ゲル法により得られた湿潤ゲル内に含まれる微細な骨格の分散状態をたもったまま,うまく乾燥を行なうことで得られる。希薄な骨格しかもたない湿潤ゲルから液体(分散媒)を乾燥除去するためには,高圧プロセスである超臨界乾燥法を用いる必要があり,普及へのハードルとなってた。
湿潤サンプルを乾燥する方法として,もっとも簡易的な蒸発乾燥は,湿潤ゲルを蒸発する際,収縮やひび割れが起こりやすい問題というがある。一方,凍結乾燥法(フリーズドライ)では,凍結体の骨格構造を維持したまま乾燥体を得ることができるが,乾燥サンプル中に粗密構造が生じ,光学特性が大きく損なわれるなどの問題があった。
研究では凍結乾燥法において,ゲルを形成する骨格自体を減らすことで,凍結時に起こる湿潤ゲルからの構造変化(局所的な凝集など)を極力少なくする方法をとった。その結果,3.5mgcm−3という超低かさ密度かつ透明な乾燥モノリス(クライオゲル)を得ることに成功した。
凍結乾燥法で多孔体を作製する際,凍結前の分散媒中に発光体や色素など機能材料を加えることで,それらをモノリス型多孔体中に分散させた材料を作製することが可能になった。このような巨視的な複合材料は,3Dディスプレーに用いる発光体やシンチレーターなどへの応用発展が考えられるという。
これまでBNFを用いた超低かさ密度の透明多孔体はビーズ大でしか得ることができなかったが,今回,大きな直径をもつ透明モノリス型多孔体の作製も可能になった。現在得られているBNFクライオゲルは可視光透過率が5mm厚で70%程度であり,既発表の BNFエアロゲル(10mm厚で90%以上)に大きく劣る。
今後,凍結プロセスの改良・最適化や物性への影響を調べていくことが必要だが,透明なナノファイバー多孔体,特にモノリスに関する報告はこれまでほとんどなく,この簡易な作製手法の実現をきっかけに世界中で同様の研究が進むことが期待できるとしている。