岡山大学の研究グループは,「岡山大学方式の人工網膜OUReP™」が,黄斑変性を有するサルの視覚誘発電位を回復することを証明した(ニュースリリース)。
この人工網膜は,色素結合薄膜型の人工網膜であり,2013年にアメリカで販売開始されたカメラ撮像・電極アレイ方式とはまったく異なる方式人工網膜。現在,医薬品医療機器総合機構(PMDA)と薬事戦略相談を積み重ね,「医薬品医療機器法(旧薬事法)」に基づく医師主導治験を岡山大学病院で実施する準備を進めている。
光を吸収して電位差を出力する光電変換色素分子をポリエチレン薄膜(フィルム)に化学結合しており,電流を出力するのではなく,光を受けて電位差(変位電流)を出力することで、近傍の神経細胞を刺激することができる。
「色素結合薄膜型」の人工網膜は薄くて柔らかいので,大きなサイズ(直径10mm大)のものを丸めて小さな切開創から眼球内の網膜下へ植込むことが可能。その手術は現在すでに確立している黄斑下手術の手技で実施できる。
大きなサイズ(面積)の人工網膜なので得られる視野は広く,人工網膜表面の多数の色素分子が網膜の残存神経細胞を1つずつ刺激するので,視覚の分解能も高いと見込まれている。人工網膜の原材料も安価なので,手の届く適正な価格にて供給できるという。
今回実験を行なったサルについて手術後6か月の間,眼科検査を行なって経過を見たところ,網膜剥離や出血などの合併症は一切認められなかった。光刺激によって脳の後頭葉(視覚領)で誘発される脳波を加算して記録する視覚誘発電位を調べると,黄斑変性で低下した電位の振幅が人工網膜を挿入した1か月後には回復し,さらに6か月後にも維持されていることが分かった。
治験機器である人工網膜には極めて高い安全性,有効性,品質管理が求められており,良い研究シーズがあるからと言ってすぐに患者に適応することはできず,長い時間を掛けていくつもの試験を適正に実施しなければならない。この研究成果によって,人工網膜の有効性と安全性が更に示されたことにより,医師主導治験の実施に向けた確実な階段をまた一歩上がったとしている。