量子科学技術研究開発機構(量研機構)と大阪大学(阪大)主催による光量子ビーム科学シンポジウム2017―光量子ビーム科学コ・クリエーションがこの11月24日,リーガロイヤルホテル大阪において開催された。このシンポジウムは,日本を代表するエネルギーと強さ,色の3種類の大型レーザー施設が関西100㎞圏内に集中していることを背景に,関西地域を始めとした我が国の強みである光量子ビーム技術を活かし,大学や国研に加え,産業界とのコ・クリエーション(共創)による新たな展開を目指す観点から企画されたもので,当日は約250名を超える聴講者が訪れた。
シンポジウムはまず,主催者挨拶が行なわれ,最初に登壇した量研機構・理事長の平野俊夫氏は「このシンポジウムは量研機構・関西光科学研究所と大阪大学が包括的協力協定を締結したことにより,実施しているもので,今回で2回目となる。これまで関西光科学研究所と大阪大学のレーザー科学研究所は,研究の相互参加や実験データ解析などで,ハイパワーレーザー研究拠点としての連携協力を強力に進めてきた」
「光量子科学の我が国における重要性は日増しに大きくなっている。第5期科学技術基本計画では超スマート社会Society5.0が提案されているが,光量子技術はこの実現に向けた新たな価値創出のコアになるものと位置づけられている。また,21世紀のあらゆる分野の科学技術の進展と我が国の競争力強化の根源であると認識されている。これに基づき,その推進方策やロードマップが検討されている」
「このような状況において,大阪大学・レーザー科学研究所と量研機構・関西光科学研究所は,互いの強みである世界最高レベルのハイパワーレーザー技術を相互に活用し,強力な連携を通じてより高度な技術に磨いていくことで世界トップクラスの競争力を持つ技術と知の結集,創造力と実行力を結合したイノベーションの共創,さらに世界最高の研究教育環境を持つ国際研究拠点の形成に向けて邁進していきたいと考えている」と述べた。
続いて大阪大学・総長の西尾章治郎氏は,「世界は様々な観点で内向きの傾向にある。大学もこれまでの学術研究の拠点として社会とのつながりという面では比較的閉じていたと思う。そこで私は開かれた大学を目指すため,OUビジョンを掲げた。このビジョンのもと,大阪大学は学問の神髄を極める卓越した研究の場であるとともに,公共的課題に取り組み,社会変革に貢献する世界屈指のイノベーティブな大学の実現を目指している」
「大学には社会に変革をもたらす人材の育成,世界トップレベルの基礎研究の強化,最先端の研究成果やイノベーションの創出といった強い要請が寄せられている。これに応えるべく,本学では分野横断的な新領域の創生やイノベーションの創出,世界に通用する人材の育成を重要課題としてとらえ,柔軟かつ機動的に取り組んでいる。その主要な一つとしてこのシンポジウムでは光科学を取り上げた」
「この分野は物理学,化学,天文学,地球科学,考古学といった学術分野から情報通信,ナノテクノロジー,材料,医療といった分野への応用の可能性が拓かれる科学技術の基盤となる分野横断的な研究分野である。本学には100を超える光科学研究が取り組まれており,非常に高いポテンシャルを有している」
「また,レーザー科学研究所,核物理研究センター,接合科学研究所を始め,工学研究科附属のフォトニクスセンターや超精密科学研究センターなど光・量子ビーム科学に関する研究拠点があるが,これらのポテンシャルを集結させることにより,重要な研究分野の一つとしてさらに大きく発展させることを目指す」と語った。
その後,関西経済連合会・会長の松本正義氏と文部科学省・大臣官房審議官の信濃正範氏による来賓挨拶があり,講演会に移った。
講演ではまず,大阪大学・レーザー科学研究所・所長の兒玉了祐氏が「宇宙創成からモノ・人づくりに貢献するレーザー科学」をテーマに講演。大学における光量子科学の紹介とともに,大阪大学と量研機構・関西光科学研究所,理化学研究所播磨にある関西パワーレーザー施設の連携状況と,ハイパワーレーザー科学に関する国内外における連携,産学官連携,人材育成について紹介した。
次に,量研機構・関西光科学研究所・所長の河内哲哉氏が「粒子線加速と医療・産業への応用をめざすレーザー科学技術」をテーマに講演。関西光科学研究所の最先端レーザー技術によるレーザー加速研究や医療・産業応用,さらに国内外の研究機関との連携による研究開発の展開などを語った。
続いて,大阪大学・核物理研究センター・センター長の中野貴志氏が「安心・安全・スマートな長寿社会実現のための光量子ビーム応用」をテーマに講演。難治性がんの新規治療法として期待が集まるアルファ線内用療法の開発やスマート社会実現のために重要となってくるソフトエラー評価の現状と可能性を紹介するとともに,国内事業におけるオールジャパン体制による光量子ビーム応用の新たな展開を紹介した。
最後は,量研機構・放射線医学総合研究所・所長の野田耕司氏が「量子ビーム技術を駆使したがん治療法の開発―量子メスプロジェクト」をテーマに講演。量子ビームの医療応用を紹介するとともに,国内事業やレーザー加速器の小型化開発へのアプローチと医療応用などの現状を紹介した。
シンポジウムはレーザー学会会長で光産業創成大学院大学・学長の加藤義章氏の閉会あいさつをもって終了となった。シンポジウムでは大学における研究予算確保の厳しさも指摘された。本格的な少子高齢化時代を迎えるにあって,研究者に対する手厚い支援が求められており,その本質的な課題解決が光科学技術の持続的発展につながると認識させるものとなった。