物質・材料研究機構(NIMS)は,早稲田大学,多摩美術大学と共同で,グラデーション変化する調光ガラスを開発した(ニュースリリース)。
この調光ガラスは,使用者の好みに合わせて自由に調光範囲を変えることができるため,太陽の高さに合わせて遮光範囲を変えるなど,従来の調光ガラスでは困難だった「遮光と眺望を両立する窓」として,車やビルなど様々な用途への利用が可能になると考えられる。
電気をかけることで遮光状態を変えることができるエレクトロクロミック(EC)方式の調光ガラスは,近年,飛行機の窓などに使用されている。しかし,これまでは,遮光状態をガラス全体で調整するしかなく,遮光後は窓外の景色を楽しむことはできなかった。
今回,研究グループが作製した調光ガラスは,色変化の応答性に優れた有機/金属ハイブリッドポリマーをEC材料として用い,遮光化に要する時間が0.31秒,透明化にかかる時間が0.58秒と非常に速いのが特長(電圧1.2V,膜面積1.0×1.5cmの場合)。また,透明化と遮光化の繰り返し耐久性も10万回を超える。
デバイスは,このEC材料と固体電解質を2枚の透明電極付ガラスで挟んだ。今回,細かく区分けされた透明電極をガラス上に作製し,区分け部分を極めて細い透明電極で接続した。この極めて細い電極部分(接続部分)は非常に大きな配線抵抗となるので,一方向から電気を流すと,流す方向に沿って,電極の抵抗値が階段状に増える。
配線抵抗の増加は,各区分けされた透明電極部分にかかる実効電圧を低下させるので,その結果,EC材料の色変化の速度が遅くなる。従って,電池をつないだ側から遠い場所ほど実行電圧が低下することで色変化が遅くなり,グラデーション変化が生じる。
試行錯誤の結果,3Vを電極間にかけるだけで,ガラス全体が遮光状態から透明状態までグラデーション変化し(変化時間:約80秒),電池のプラスとマイナスを入れ替えると,今度は透明状態から遮光状態までグラデーション変化する(変化時間:約40秒)調光ガラス(サイズ:20×20cm)の作製に成功した。
今回の技術を活用することで,オートサンシェイド(自動遮光)機能を車のフロントガラスに付与して運転の安全性を高めたり,高層ビルの窓に導入して遮光による空調の省エネルギー化と眺望の両立を達成することで,快適で安全な暮らしへの貢献を目指す。そのために,今後,耐熱性や耐光性の性能向上や,色ムラの修正などの更なる開発を行ない,高い機能性と信頼性を兼ね備えた調光ガラスの作製を達成する予定。