北陸先端科学技術大学院大学(JAIST),京都大学,東京工業大学,東北大学,理化学研究所,米ニューヨーク市立大学は共同で,スピン波とダイヤモンド中の窒素-空孔複合体中心(NV中心)を組み合わせた長距離(約3.6㎜)スピン信号変換に成功した(ニュースリリース)。
これまでデバイスの情報の入出力には電流が用いられてきたが,情報処理に時間がかかることや発熱などの問題があった。これらを解決する方法として、電流を用いずに電子の自由度であるスピンを用いるスピントロニクス素子や量子情報素子の実現が期待されている。
従来,これらの素子では相互作用を大きくするためにスピンとスピンの距離をナノメートル程に設計する必要があった。今回の研究では,スピンの波(スピン波)とダイヤモンド結晶中のNV中心に存在するスピン状態とを組み合わせた手法により,ミリメートルの長距離でもスピン情報を伝送できることを実証した。
研究では,先ず,直径4㎜の絶縁体である磁性ガーネット(Y3Fe5O12: YIG)多結晶円板にマイクロ波と磁場を印加して,磁気の波(スピン波)を試料左端に励起する。この際に,表面スピン波と呼ばれる,試料表面に局在し一方向にのみ伝搬するスピン波を励起する。
その後,試料左端から右端へ3.6㎜伝搬した表面スピン波は,試料右端上に配置されたダイヤモンド中に用意された複数のNV中心スピンを励起する。励起されたNV中心は光学的に磁気共鳴信号(ODMR)やラビ振動を計測することにより検出する。
今回,スピン波の共鳴周波数とNV中心の共鳴周波数が一致する条件でODMR信号が増強され,ラビ振動の周波数が高くなることを発見した。
研究グループは今後,2つのスピン状態をスピン波で接続することで,これまで困難だった長距離(ミリメートル以上でも可能)離れた2つのスピン状態間の信号の変換を可能にし,新しい量子情報素子やナノスピンセンサーを実現する技術開発に貢献することが期待されるとしている。