量子科学技術研究開発機構(QST)は,X線を当てた際に磁石から発生するX線は特徴的な振れ方(偏光)を有しており,その振れ方が磁石の向きにより変化する現象を発見した(ニュースリリース)。
X線を用いて磁性材料中のミクロな磁石の向き(磁区構造)を調べる手法は,磁石性能の向上などに必須であることから,これまでも活発に開発が進められ,広く利用されている。これまでのX線を用いた磁区構造観測手法では,主に磁石の向きによってX線の吸収量が変わる現象を利用していた。
しかしながら,この手法では鉄やコバルトといった磁石に有用な材料に対して,透過力のあるエネルギーの高いX線(硬X線)では,磁石の向きに対する感度が低いという問題があった。
この難問に対し,研究では,X線と磁気の基礎原理から見直し,新たに,物質にX線を照射した際に発生するX線(蛍光X線)とその振れ方に着目した。測定では大型放射光施設SPring-8の強力なX線を用い,磁石から発生する蛍光X線が特徴的な振れ方(円偏光)を持っており,磁石の向きに応じてX線の振れ方(偏光)が変化する現象を初めて発見した。
また,硬X線を用いて鉄やコバルトを対象に磁区構造を観察する場合でも,蛍光X線の振れ方に着目すると,磁石の向きに対する感度が高いということも分かった。こうした特長は,材料内部の磁区構造が見える高性能なX線磁気顕微鏡の開発にもつながるという。
この成果は基本的な原理の発見であるとともに,希土類金属を含まない新規高性能磁石材料に対して,磁区構造の内部観察から性能劣化の場所・原因を特定し高性能化に貢献するなど,開発研究へ寄与も期待されるとしている。