東京大学の研究グループは,少数の散乱体を含む微小な2次元伝導体を用い,電子が常に光の速さで震動している現象を,固体中の電子を使って確認することに成功した(ニュースリリース)。
真空中の電子は,様々な速さで走ったり止まったりしていると思われているが,実は常に光の速さで細かく動いており(「震え運動」),その平均として見かけの速さが決まると考えられている。その振動数は1秒間に25000京(2.5×1020)と言われ,測定することは不可能。固体中の振動数は遥かに遅くなるが,それでも測定は非常に難しく,これまで電子の震動を明瞭に捉えた報告はほとんどなかった。
研究グループでは、電子の震動を観測するために、InAsを用いて電子を2次元に閉じ込めた。この構造の中では,電子のスピン自由度と軌道運動との間の相互作用(スピン軌道相互作用)が強いため,震え運動方向は平均速度方向に直交し,全体として蛇行運動となって現れる。その幅はスピンと運動量ベクトルのなす角度で完全に決定され,一度蛇行する間に数十㎚程度進む。
さらに,電気抵抗が量子化する量子ポイントコンタクトと呼ばれる細い隙間を用意し,ここを通る電子のスピン方向を揃えた。この量子ポイントコンタクトを電子が散乱されずに走る平均距離の2倍の距離に向かい合わせに置くことで,散乱体が複数個立っている設定になっている。
いわば,電子のパチンコ台を平らに置いたようなもので,くぎ(散乱体)によって電子は向きを変えられるが,電子の「震え方」によってくぎに当たった後の向きも大きく変化する。これによって微小な「震え」が増幅され,全体の電気抵抗に大きな揺らぎが現れる。
この研究によって,長年実験的な検証が待たれていた電子の震動現象が,意外に大きな電気抵抗揺らぎとして現れることを示し,現象の検証と新たな揺らぎの発見とを同時に行なうことができたとしている。
これにより,1930年以来,多くの物理学者が理論的に興味を持ちつつも観測できなかった,電子の「震え現象」(Zitterbewegung)の検証に成功した。また,これに起因する新たな電気抵抗の揺らぎ現象を発見し,詳細な観測を続けることで量子力学の基礎方程式に関する新たな知見が期待されるという。