分子研ら,有機半導体の電子格子相互作用を観測

自然科学研究機構分子科学研究所と千葉大学を中心とする研究グループは,有機半導体の電荷(電子・ホール)が結晶に広がる集団的な格子振動と局所的な分子振動から受ける多重の量子効果(電子格子相互作用)をはじめて観測することに成功した(ニュースリリース)。

フレキシブルディスプレーや,薄くて軽い太陽電池などの有機エレクトロニクスの実現において,有機分子が電気を流すメカニズムはまだ解明されていない。有機半導体は有機分子の集合体であり,固体においてはその物性は結晶構造などの集合状態に極めて敏感に影響される。つまり分子の構造に加えその集合状態に依存して電荷の波動性が前面に現れたり,粒子性が強調されたりする。

特に分子は水素,炭素などの軽元素で構成されるが,一つ一つの分子は非常に大きく重いという特徴がある。分子中の電荷は,分子内の振動(軽い元素の振動によるエネルギーの非常に大きなフォノン)の影響を受けやすく,伝導する電荷はこの分子振動の影響に加え,さらに分子全体(大きな質量)が寄与するエネルギーの非常に小さな結晶振動の影響を重複して受ける。

これらの振動が電荷に与える影響はシリコンなどの無機半導体におけるものとは顕著に異なる特徴と言え,理論的にも有機半導体におけるその影響が議論されていた。

光電子分光法による電子状態評価は「分子の中の伝導電荷の姿」を量子論的に明らかにする上で極めて有効だが,電気伝導特性の中身とリンクさせることが容易ではなかった。最近になってようやく重要な複数の基幹技術が成熟し,高度に結晶化した分子材料の高分解能角度分解紫外光電子分光法による研究が積み重ねられ,分子材料の伝導電荷の特徴が見え始めている。

研究では研究グループは,高輝度シンクロトロン放射光施設UVSORを利用した,世界最高水準のエネルギーおよび波数分解能を有する角度分解紫外光電子分光実験により,有機半導体としての利用が期待されるルブレン分子の単結晶において,電荷が波としての性質を露わにもつ状態で,上記のような各種の振動が及ぼす影響を区別して実験で捉えることに成功した。

分子材料の電荷は「粒子性」・「波動性」の二面性を持ち合わせている。粒子性を示す要因のひとつとして,結晶における構造の乱れによる電荷の局在化と振動による搖動などの影響が挙げられるが,その影響を区別して実験で検証した例はなかった。定性的に振動の種類として分子自身が局所に振動しているいわゆる分子振動と集団で振動する非局在化した格子振動があるが,空間スケールと応答時間スケールが両者で大きくことなるにも関わらず,電子格子相互作用としての影響は明確に区別されてこなかった。

このような影響はこれまで理論的な取り扱いが難しく,電気伝導度特性の温度依存性の要因として明確に述べられてこなかったが,階層スケールの異なる複数種の振動が電荷輸送に顕著に寄与していることが示唆された。今後,振動結合の影響を体系化するための理論的な取り組みが待たれるとしている。

また,高性能分子デバイス材料を設計するためには,個々の分子構造の設計(フロンティア軌道,振動分布,再配向エネルギー)だけでなく,集合化したときの結晶構造(バンド分散,フォノン分散)が重要な因子になることがわかり,新たな設計ガイドラインを提供するものだとしている。

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