自然科学研究機構 核融合科学研究所は,我が国独自のアイデアに基づいた世界最大級の超伝導核融合プラズマ実験装置である大型ヘリカル装置(LHD)を用いて行なってきた重水素実験で,プラズマ中のイオンの温度1億2,000万度を達成した(ニュースリリース)。
核融合を実現するために最も重要なプラズマ条件の一つに,イオン温度1億2,000万度がある。トカマク型装置では,既にこの条件を達成しているが,将来の核融合発電に必須の定常運転に課題を残している。それに対して,LHDのようなヘリカル型装置は定常運転性能に優れているが,イオン温度に代表されるプラズマの高性能化に課題を残していた。
世界最大級のヘリカル型装置であるLHDでは,トカマク型装置においてプラズマの高性能化が達成されている重水素実験を開始したところだが,僅か1週間でイオン温度1億度を達成するなど,この課題を解決することが期待されていた。
今回の重水素実験開始に向けて,LHDではプラズマ加熱装置の改造,プラズマ生成ガスの供給・排気を行なう粒子制御装置の高性能化,計測器の増設,安全設備の整備等を行ない,重水素実験を開始した。その結果,実験開始1週間後には1億度を超えるイオン温度を達成し,軽水素プラズマで記録された9,400万度を更新,更にその約1ヶ月半後にはイオン温度1億2,000万度を初めて観測した。
今回,世界最大級のヘリカル型装置であるLHDにおいて,イオン温度1億2,000万度を達成したことは,ヘリカル型の課題であったプラズマの高性能化に対して,その解決への見通しをつけた点で非常に大きな意義がある。今後,ITER(国際熱核融合実験炉)による核融合燃焼の結果を取り込むことにより,ヘリカル型がITER後に計画されている実際に核融合発電を行なう発電炉の最有力候補になることが期待されるとしている。