新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO),産業技術総合研究所(産総研),日本原子力研究開発機構(原研),J-PARCセンター,総合科学研究機構の5者は,世界で初めて,ガラスやシリコーンの基本単位構造であるオルトケイ酸の結晶の作製に成功し,19世紀から未解明であった同物質の詳細な分子構造を解析した(ニュースリリース)。
シリコーンや機能性シロキサン化合物などの有機ケイ素材料は,シャンプーや化粧品,キッチン用品,コンタクトレンズなどの生活に身近な製品から,低燃費エコタイヤやLED電球,太陽電池モジュールなどの高機能な製品まで,さまざまなところで使用されている。その特長は,炭素系のポリマー材料より優れた耐熱性や耐寒性,耐光性,電気絶縁性,離型性,撥水性などの物性にあり,特に,さまざまな製品の長期安定性に貢献している。
有機ケイ素材料に要求される性能水準は年々高まっており,より高機能・高性能な有機ケイ素材料の開発が望まれている。例えば,電子機器の小型化やLED高輝度化に伴う発熱や高強度の光に長期間耐える材料の開発が挙げられる。
これを達成するために,無機ケイ素化合物(ガラス,シリカ,ゼオライトなど)や,有機ケイ素化合物(シリコーンなど)の基本単位であるオルトケイ酸(Si(OH)4)の分子構造の解明,安定的な合成と単離が求められてきた。しかし,オルトケイ酸の詳細な分子構造は,この物質の研究が始まった19世紀から今日まで,解明されてこなかった。
これまで,オルトケイ酸はアルコキシシラン(Si(OR)4)や塩化ケイ素(SiCl4)を加水分解することでその発生が観測されてきたが,速やかに重縮合し,最終的にはシリカ(SiO2)になってしまうことから単離された例は皆無だった。
そこで,NEDOプロジェクト「有機ケイ素機能性化学品製造プロセス技術開発」(2014~2021年度)において,産総研は,有機化学的手法を無機化合物のオルトケイ酸の合成に応用することによって,不安定なオルトケイ酸を安定的に合成し,その構造解析に成功した。
これは,原研,J-PARCセンター、総合科学研究機構の協力を得て実現したもの。オルトケイ酸はガラスに代表される無機ケイ素材料の基本単位構造であるだけでなく,有機ケイ素材料の基本単位構造でもある。
この合成と基本構造の解明によって,基本単位から構造が制御されたシリコーンの合成が可能となり,高機能・高性能ケイ素材料製造への貢献が期待されるとしている。