分子研ら,プランクトンの紫外線感知メカニズムを解明

自然科学研究機構分子科学研究所は,生理学研究所との共同研究により,動物プランクトンのモデル生物として研究されている,ゴカイ幼生の脳にある光センサータンパク質が紫外線を感知することを明らかにした(ニュースリリース)。

動物プランクトンは,紫外線ダメージ(と捕食者)を避けるために,昼間は深層で活動し夜間に水面近くに移動する大規模日周行動(日周鉛直移動と呼ばれる)を示すが,紫外光を感知するメカニズムは不明だった。

以前の研究から,動物プランクトンのモデル生物として研究されているゴカイの幼生は,脳内にオプシンという光センサータンパク質が発現する光受容細胞を持つ。この脳内光受容細胞は,日周期の遊泳行動を制御することも報告されている。しかし,このオプシンが,どの波長(色)の光を感知するのかはわかっていなかった。

研究グループは,このオプシンのタンパク質を精製して,どの波長の光を吸収するかを調べた結果,このオプシンが紫外光を特異的に吸収することを見出した。さらに,このオプシンを発現させたカエルの卵母細胞に,紫外光を当てると,電気応答を示した。つまり,このオプシンを介して紫外光シグナルが入力され,ゴカイの日周鉛直移動の制御に関わることが強く示唆された。

さらに,オプシンが光を受容するためにはビタミンAの誘導体であるレチナールが必要だが,ゴカイ幼生の脳内では特殊な酵素群を必要とせずに全ての型のレチナールを結合できる能力があることが分かった。これは脳で光を受容するために必要だと考えられるという。

次に,ゴカイ幼生の脳内オプシンが,どのようにして紫外線を感知できるようになっているのかを明らかにするための実験を行なった結果,レチナールが結合する部位近くの,一つのアミノ酸残基が紫外光受容に必須であることがわかった。

さらにこの残基を他のアミノ酸に変えると,レチナールを結合できなくなった。すなわち進化の過程で,オプシンがこの残基を獲得することで,紫外光を受容することと,レチナールを結合できるようになり,ゴカイ幼生が,脳で紫外線を感知できるようになったと考えられた。

動物プランクトンは,日周鉛直移動を示すとともに,イワシやサンマなどの魚の餌にもなっている。ゴカイ幼生以外の動物プランクトンでも,同様の紫外光感知メカニズムがはたらいているのか注目し,日周行動の制御メカニズムの理解を進めることで,プランクトン食生の魚介類の生育管理手法の開発などにつながることが期待されるとしている。

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