京大ら,生体脳の神経伝達物質受容体への標識に成功

京都大学と科学技術振興機構(JST)は,生きている動物脳内の天然に存在する神経伝達物質受容体たんぱく質を標識する新手法を開発した(ニュースリリース)。

従来は目印となるような蛍光を発するたんぱく質を,遺伝子組み換えにより観察したいたんぱく質とつないだ状態で発現させて観測していたが,①遺伝子組み換えが必要であること②観測したいたんぱく質に対する機能阻害③発現時の不具合の懸念から,より自然な状態でたんぱく質を標識(ラベル化)する技術の開発が望まれていた。

研究グループは,標識試薬(ラベル化剤)で天然に存在するたんぱく質を化学修飾する「LADI化学」という手法を開発してきた。今回,生きた動物の脳内において,LDAI化学により標的とする神経伝達物質受容体の選択的な化学修飾に成功した。

まず,記憶や学習に関与する重要な神経伝達物質受容体であるAMPA受容体を標的として選択し,ラベル化剤の投与方法や,生きた脳組織においてラベル化反応を進めるためにラベル化剤に求められる性質の検討を行なった。

その結果,親水性が高いスルホ基が多いラベル化剤とすることで脳全体にラベル化剤が浸透し,標的としたAMPA受容体をマウス全脳で選択的に化学標識することに成功した。その一方で,スルホ基がないラベル化剤では脳組織へのラベル化剤の浸透性が悪く標識できなかった。

これらの知見をもとに,さらに3種の神経伝達物質受容体(代謝型グルタミン酸受容体(mGIu1),NMDA型グルタミン酸受容体(NMDAR),GABAA受容体(GABAAR)に対するラベル化剤を開発し,いずれの受容体に対しても,全脳スケールでの選択的な化学標識を達成した。

脳内LADI化学は,ラベル化剤を投与した時点で,細胞表層に発現し,機能している受容体をパルス的に標識できる。これを利用し,ある時点で標識した受容体のその後を追跡できる。

今回,生後4日の時点で一度シナプスや細胞体表面に存在したAMPA受容体が,生後7日の時点では新しくできた異なる役割を担うシナプスに移動し再利用されていることを明らかにした。

これは,新旧の受容体を区別できない既存の抗体を利用した免疫染色などの解析方法では明らかにできないことであり,生きたマウス脳内で受容体を化学標識することによって初めて解明された。

研究グループは,今後さまざまな機能性分子の導入により、動物個体内における天然のたんぱく質の機能解明に役立つことが期待される成果だとしている。

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