産業技術総合研究所(産総研)は,大陽日酸,東京農工大学と共同で,低コストでガリウムヒ素(GaAs)太陽電池を高いスループットで製造できるハイドライド気相成長(Hydride Vapor Phase Epitaxy,HVPE)装置を開発した(ニュースリリース)。
太陽電池の発電効率を高める次世代技術として,複数の種類の太陽電池を積層させた多接合太陽電池の研究開発が盛んに行なわれている。中でもGaAs太陽電池は太陽電池の中でも発電効率に優れていることから,多接合太陽電池のトップセルやミドルセルとしての利用が期待されている。
しかし,GaAs太陽電池の有機金属気相成長(MOVPE)装置を用いた従来の製造方法では高価な有機金属を用いるために製造コストが高い。安価な純金属を原料として用いて成膜コストを低減でき,かつ成膜スピードもMOVPE装置の10倍以上を実現できるHVPE装置が注目されている。
しかし,HVPE装置では成膜の高速性と制御性,均一性が一般的にトレードオフ関係にあり,太陽電池製造用の商用機は開発されていなかった。今回,三者はこのHVPE法を用いた成膜技術に着目して,高速に成膜できる太陽電池製造用のHVPE装置の開発に取り組んだ。
HVPE装置はガス種の切り替えだけでは,膜の種類を瞬時に切り替えることができない。そこで多層構造を安定して高速成膜するため,連続して瞬時に膜の種類を切り替えることができるように,3室マルチチャンバー方式を採用した。更には製造できる太陽電池の大型化・大口径化に繋がるよう装置の構造を水平置き縦型とした。
GaAs太陽電池を基板全面に均一性良く製造することができるなど面内均一性にも優れ,同装置を用いて試作したGaAs太陽電池はHVPE装置によるものとしては世界トップレベルの発電効率20.3%を実現した
今後は,GaAs太陽電池が一般用にも広く普及できるように,一層の低コスト化と高効率化の研究を進める。特に生産性向上のために,100μm/h以上に高速化させた成膜速度で産業用の4インチ以上に大口径基板上に均一性良く太陽電池を成膜する技術に展開させる。
更には,産総研が保有しているスマートスタック技術による接合を利用して,HVPE装置によって製造された低コストGaAs太陽電池と安価なSi太陽電池を組み合わせた低コスト・高効率多接合太陽電池の実現を目指す。