九州大学の研究グループは,紫外線励起による世界最長寿命である30ミリ秒(ms)の有機薄膜レーザーの連続発振に成功した(ニュースリリース)。
有機薄膜レーザーは,無機レーザーでは実現が困難な,可視域から赤外域全域にわたる広範囲の波長を任意に発振できるという有望な特徴があり,将来の光通信やセンシング,そしてディスプレイまで幅広い新しい分野への応用が期待されている。
研究における光励起型の有機薄膜レーザーは,有機レーザー活性層と,DFB構造を含んだ光共振器とで構成される。有機薄膜レーザー発振は,有機レーザー活性層に含まれる有機レーザー分子を紫外線で励起し,それによって発生する吸収エネルギーが発光に変換され,さらに同じ波長の光が増幅された後,光共振器によるフィードバック効果によって起こる。
従来のデバイス構造では,有機分子によるレーザー光の吸収や有機レーザー活性層での熱劣化および光損失が大きく,有機薄膜レーザーの連続発振時間は大きく制限されていた。
研究は,次の3点の条件を揃えることで,30ミリ秒に達する世界最長の連続レーザー発振に成功した。1点目に,有機薄膜レーザーの発振を阻害する要因の除去に取り組んだ。レーザー動作中に蓄積される寿命の長い三重項励起状態によって,光が吸収されてしまうという重大な課題があったが,三重項励起状態の吸収スペクトルとレーザー発振スペクトルの重なりが十分に小さい有機レーザー分子をレーザー活性層に用いてレーザー光の吸収を減らすことにより解決した。
2点目に,熱劣化の抑制に取り組んだ。有機薄膜レーザー素子の下層基板として放熱性に優れた単結晶シリコン基板を,上部保護層として高分子材料を薄く接着したサファイアガラスを用いることでカプセル化し,放熱性の問題を解決した。
3点目に,光共振器構造として最適化を行なったDFB構造を用いることで光損失が抑制され,従来報告されている有機レーザー発振閾値としては最も低い値を実現した。
これは,従来の報告の100倍以上の長寿命化を達成したことになるもので,将来の“電流励起型有機半導体レーザー”を実現するための重要な一歩を踏み出したことになる成果だとしている。