理化学研究所(理研)は,アルミニウム薄膜で作った「メタマテリアル」で,可視光全域をカバーする「色」を作り出すことに成功した(ニュースリリース)。
光の波長よりも小さいナノメートルサイズの構造体(ナノ構造)を大量に集積化して自然界の物質では実現できない光学特性を持たせた人工物質をメタマテリアルと呼ぶ。ヒトの目は捉える光の波長の違いによって色を区別するので,ナノ構造の大きさや形を変えることでメタマテリアルが吸収する光の波長を制御すれば,さまざまな色を作り出すことができる。
従来のメタマテリアルでは,吸収する光の波長が一つに限定されていたり,吸収する光の波長幅が広いためパステルカラーのような彩度の低い色しか作り出せないといった課題があり,任意の色を自在に作ることはできなかった。
今回,研究チームは電子ビームリソグラフィー法と真空蒸着法を用いて,シリコン基板上に厚さ150nmのポリメチルメタクリレート(PMMA)レジスト材料を塗布し,PMMA上に四角形パターンを描画後,その四角形上とそれ以外の部分に厚さ45nmのアルミニウム薄膜を塗布した。
この座布団形状のナノ構造を持つメタマテリアルにより,赤色から紫色まで可視光全域をカバーする,さまざまな色を作り出すことに成功した。さらに異なる色を出す構造を混ぜると,絵の具を混ぜたときのように色が混ざり,黒色を作り出すこともできた。
有機物質である絵の具やインクの色は,強い光,高温,酸化により除々に失われる。しかし,開発したメタマテリアルの表面は比較的安定な酸化皮膜を持つアルミニウムで覆われているため,ナノ構造が破壊されない限り,半永久的に退色することはない。また,インクなどの塗料と比較すると,はるかに薄くて軽いという特長もある。
研究チームが開発した「メタマテリアル・カラー」は,高解像度ディスプレイやカメラのカラーフィルターとしての利用や,光の散乱を避けたい光学機器の内壁,大型望遠鏡内の黒色塗装などの応用が期待できるという。