横浜国立大学は,ダイヤモンド中の窒素空孔中心(NV中心)に存在する単一電子スピンをレーザー光で自在に,正確に操作する新原理を発見し,実験で実証することに世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
量子力学の法則を利用した次世代の量子情報技術を実現させるための基盤として,ダイヤモンド中の電子スピンを情報の単位(量子ビット)として扱う方法は,情報の保持と集積化の観点で優れていることが知られている。ダイヤモンドに集積配列された電子スピンを量子制御するためには,スピン一つ一つを個別に,自在に,正確に制御する技術が求められる。
レーザー光の局所電場を利用することで電子スピンの選択的制御が可能だが,これまでに提案,実証されている制御手法では,限られた制御しかできないうえに,制御の忠実度も高くなかった。
これまでは,磁場の印加によって物理系にどれだけ大きなエネルギー差をつけるかが重要とされていたが,研究では反対に,磁場を厳密に排除することにより物理系のエネルギー差を敢えてなくし,結果的に出現する空間の自由度を巧みに利用する方法を考案し,これを実験で実証した。
従来とは真逆の発想によって,時間のかかる断熱的操作ではなく時間のかからない非断熱的操作を可能にし,ナノ秒(10-9秒)の速さで,忠実度が90%以上と極めて正確かつ完全に自在な制御の実現に世界で初めて成功した。これは,マイクロワット(10-6W)という小さな光パワーを用いながらも,従来の約100倍の速さに当たり,忠実度を約3倍向上したことになる。
これにより108個のNVスピンを光で一括制御する可能性を示した。さらに,スピンの制御機構もノイズ耐性の低い動的位相回転からノイズ耐性 の高い幾何学的位相回転へと移り変わることを理論的シミュレーションによって明らかにした。この成果によって,量子情報処理に必要な全操作が現実的なレベルで行なえるようになり,今後の量子情報実験を加速させることが期待されるとしている。