NEDOプロジェクトにおいて,ニチコン,大阪大学,理化学研究所は,機器の小型化等による省エネルギー化の実現が期待される次世代半導体SiCを用いて,安定した高周波駆動が可能な電力変換モジュールを開発し,高精度,高安定性が求められる大型放射光施設「SPring-8」のX線自由電子レーザーSACLAの加速器用電源での実証に成功した(ニュースリリース)。
近年,電気機器の省エネルギー化が求められ,既存のSi半導体より低損失かつ高速スイッチングが可能で消費電力が小さい次世代半導体SiCの実用化が期待されている。既存の半導体モジュールよりも高周波駆動が可能で,インダクタなどの構成部品を小さくすることができるため,電源製品の小型化が可能であり,省エネルギー効果の波及にも期待できる。しかし,高周波駆動には,ノイズ増大やそれに伴う安定性への影響など,実用化の課題がある。
プロジェクトでは,モジュール内にゲートドライブ回路を収納し,かつSiCパワーMOS-FETを採用して駆動周波数を高周波化することで,電力変換容量が数kW~数十kWクラスのV2H,公共・産業用蓄電システムや高度医療用加速器用電源に適用できる電力変換モジュールを開発した。また,周辺回路部材であるコンデンサ,トランスも小型化できることで,現行比2/3の製品体積を実現した。
このとき,電力変換モジュールの高周波駆動によるノイズ増大が懸念されたことから,回路全体のインダクタンスの低減と最適化を大阪大学とニチコンが共同で検討した。開発した電力変換モジュールを加速器用偏向電磁石電源に搭載して,偏向電磁石の磁場安定性を測定した。さらにX線自由電子レーザー(XFEL)のビーム輸送ラインの偏向電磁石をこの電源で励磁し,レーザー出力への影響について検証した。
その結果,レーザーが発振していること,およびレーザープロファイルが変化していないことから,現行のSi半導体モジュールと遜色がないこと,そして高周波駆動によるノイズ影響がないことを確認し,性能検証に成功した。
今後,ニチコンは,高度医療用加速器電源をはじめ,電気自動車などから一般家庭へ電力を供給するV2H(Vehicle to Home)や公共・産業用蓄電システムなどへの応用を進めるとしている。