大阪大学は,レーザーの光を使って粒子を加速する新しい手法を発見し,必要なレーザー強度を従来の100分の1に効率化した(ニュースリリース)。
レーザーの光を極めて短い時間(およそ1兆分の1秒)に小さい領域(数10ミクロン)に集中させると,あらゆる物質が電子とイオンに分離した「プラズマ」になる。このレーザーの光でつくり出した高密度のプラズマからは,高エネルギーの粒子や光が発生する。
特に,イオンを加速する技術は,粒子線がん治療や中性子非破壊検査,核融合の点火などに役立つと期待されている。しかしながら,こうした応用のためには,イオンを1000万~1億電子ボルトのエネルギーまで加速する必要があり,レーザー装置には極めて高い強度が要求される。
今回,研究グループは,プラズマの温度が時間と共に成長する「時間幅効果」の原理を発見した。この原理では,プラズマの温度が従来の法則を超えて上昇するため,イオンの一種である陽子の加速に利用すると,加速エネルギーとして3300万電子ボルト(=33MeV, 光速の25%に相当)を得ることができた。
この結果は,従来ならば100倍のレーザー強度でなければ得られなかった成果であり,レーザーによる粒子加速を大幅に効率化することができた。研究グループは,髪の毛の太さ程度(およそ100ミクロン)の短い範囲に,3300万ボルトという極めて大きな電圧をつくり出すことに成功している。
従来の加速器は,同等の加速エネルギーを得るために数メートル程度の長さが必要だった。今回の成果をさらに発展させれば,加速器を用いていた粒子線がん治療やインフラ非破壊検査の中性子源などに,レーザーの応用が可能となり,社会の安全・安心に貢献する新基盤技術創生につながるとしている。