浜松ホトニクスは,インジウム,ヒ素,アンチモン(InAsSb)を用いて3~11μmの光の波長範囲で高速,高感度を実現した非冷却型の赤外線検出素子「InAsSb光起電力素子 P13894-011MA」を製品ラインナップに追加すると発表した(ニュースリリース)。
感度波長範囲を従来の8μmまでから11μmまでに広げることで,10μm付近の波長を吸収するアンモニア(NH3),オゾン(O3)などの分子の測定も可能となる。測定可能な分子が増えることで,化学工場の排気ガスや排水に含まれるさまざまな成分を1つの素子で分析できる。
InAsSbを材料とした赤外線検出素子は,光吸収層となる薄膜結晶のAsとSbの組成比を変えることで12μmまで感度を持たせることが可能とされている。しかし,長波長の光に感度を持つ組成比の薄膜結晶と結晶基板では,結晶を構成する原子が並ぶ間隔が異なるため,薄膜結晶を成長していく際に欠陥が生じてしまうという課題があった。今回,同社が培ってきた薄膜結晶を成長する技術により,欠陥の少ない薄膜を成長することが可能となり,11μmまで感度を持たせることに成功した。
また,波長が長くなるほど光のエネルギーが小さくなるため素子の高感度化が必要となる。素子を冷却することで感度は高まるが,液体窒素を用いる方法では装置が大型化し,電子冷却方式では消費電力が大きくなるというデメリットがある。この素子は,構造設計に工夫をして非冷却型で高い感度を実現した。
同社の受光と発光の両素子を組み合わせることでお互いの性能を最大限に引き出し,市場の要求に最適な受発光素子を提案できるとしている。特に,この素子と4~10μmの波長範囲に発振波長を持つ量子カスケードレーザー(QCL)を組み合わせることにより,従来よりも高速,高分解能,高感度な測定が可能となり,両素子をセットで提案することで市場を拡大していく。
今後,さらに長波長の光に感度を持つ素子を開発し,より多くの分子を測定可能とするとともに,温度検知などへの応用を広げていきたいとしている。