東北大学の研究グループは,磁石材料から構成されるミクロなスピントロニクス素子を使った人工知能の基本動作の実証に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
近年,脳の情報処理機構を真似て効率的に認識・判断を行なうことを目指す人工知能と呼ばれる技術が非常に注目され,一部で実用化されている。現在実用化されている人工知能はいずれも従来の半導体集積回路技術の枠組みに立脚しており,このため脳が有する特徴である小型性,低消費電力性を実現するのは困難だった。
脳の情報処理様式により近いかたちで高速・小型・低消費電力性を兼ね備えた人工知能を実現するためには,生体におけるシナプスの役割を単独で果たす固体素子を用いることが有効となる。
今回,研究グループは,最近開発した磁石材料から構成されるスピントロニクス素子をシナプスとして用い,人工的な神経回路網を構築し,この回路網を用いて従来のコンピューターが苦手とする連想記憶という動作を検証した。
ここで用いられたスピントロニクス素子は従来のスピントロニクス素子とは異なり「0」から「1」までの連続的な値を記憶することができ,これが生体においてシナプスが果たす学習機能を担う点に特徴がある。研究グループは,スピントロニクス素子36個とFPGAと呼ばれる集積回路を組み合わせ,人工神経回路網(人工ニューラルネットワーク)を構築した。
現在のコンピューターが苦手とする連想記憶という動作を検証したところ,多数回の試行を通して,今回用いたスピントロニクス素子は期待通りの学習機能を有し,これにより構築した人工神経回路網が人間の脳のように連想記憶動作を実現できることを実証した。
今回の技術を用いることで,高速・小型・低消費電力性を兼ね備えた人工知能が実現可能となり,人工知能の適用領域が顔・音声認識,ウェアラブル端末,センサーネット,介護ロボットなど,社会の様々な分野へと拡大していくことが期待されるとしている。