産総研ら,ナノワイヤーの新たな評価技術を開発

産業技術総合研究所(産総研)は,埼玉大学,茨城大学と共同で,新しい効果の発現が期待されるビスマスナノワイヤーのホール係数を測定する技術を開発した(ニュースリリース)。

共同研究グループでは,ナノサイズ化により物性値が大幅に変化すると予想されている,ビスマスを用いたナノワイヤーの研究開発を行なっている。ホール係数を精密に測定できれば,キャリア移動度やキャリア密度に対するナノサイズ化の効果を実験的に検証できる。

しかし,ビスマスナノワイヤーは酸化しやすく,これまでの技術では空気中で電極形成する必要があるため,ホール係数測定用の微細な電極を作製することは困難であった。さらに,これまでの技術では電極位置のずれが1µm近く生じることから,ホール電圧のみを検出する精度が低かった。

そこで,共同研究グループは,ビスマスナノワイヤーを空気に晒さずに,かつ正確な位置に微小な電極を形成し,ホール係数を測定する技術の開発に取り組んだ。

その結果,直径700nm,長さ2.69mmのビスマスナノワイヤーに,微細な加工と観察ができるFIB-SEM装置を用いて,微細電極を形成することで,ナノワイヤーにおけるホール係数の精密測定に世界で初めて成功した。また,測定の結果,キャリア移動度がバルクのビスマスと比べて大幅に低下することを実験的に初めて明らかにした。

具体的には,ビスマスナノワイヤーのホール係数を,4.2Kから300Kの温度範囲で初めて測定できた。測定結果の解析から得たキャリア移動度の温度依存性は,ナノワイヤー化によって,バルクとは明らかに異なっていた。このように,ナノワイヤー中では直径サイズの制限を受けてキャリア移動度が低下し,特に極低温での移動度の低下が顕著になることを実験的に観測した。

今回開発した技術によりホール係数を正確に測定でき,キャリア移動度やキャリア密度を実験的に評価できる。また,ビスマスだけではなく,他の材料のナノワイヤーにも適用でき,これまで未解明だったナノワイヤーの電気伝導現象を,実験的に把握するための技術として期待できるとしている。

研究グループは今後,さらに直径の小さいビスマスナノワイヤーを作製し,今回開発した電極作製技術や物性測定手法を利用して,新しいナノワイヤー化の効果を実験的に観測することを目指す。さらに,物性を解明したナノワイヤーを熱電変換材料などの技術へ応用し,省エネルギー技術への貢献を目指す。

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