日立製作所は,レンズの代わりに同心円パターンを印刷したフィルムを用いて,動画撮影後に容易にピント調整ができるレンズレスカメラ技術を開発した(ニュースリリース)。
レンズが不要となることでカメラの薄型軽量化を実現し,モバイル機器やロボットなどのデザインを損ねることなく,より自由な位置にカメラを設置することが可能となる。またこの技術は,平面情報に加え,奥行き情報も画像センサーに記録することができるため,撮影後でも任意のピント位置で動画を再生することができる。
スマートフォンに代表されるモバイル機器や,デザイン性が求められるロボットなどに搭載されるカメラには,搭載場所の制限を受けることのない薄型軽量化と,高性能化の両立が求められる。それらの要求に対応したカメラ技術として,近年,撮影後に画像処理を行なうことを前提としたコンピュテーショナルフォトグラフィという技術への期待が高まっている。
この技術を応用したカメラとして,光線の位置と方向を同時に記録して撮影後のピント調整を可能としたライトフィールドカメラがあるが,特殊なレンズを要するため,大きく厚みがあることが課題だった。一方,レンズをなくすことで薄型軽量化を実現するレンズレスカメラが開発されているが,このカメラで撮影する画像の処理には多くの計算が必要であり,性能に課題があった。
同社は今回,同心円パターンを重ね合わせることによって生じるモアレ縞の原理を利用することで,薄型軽量のレンズレスカメラでありながら,画像処理の計算量を300分の1まで減らすとともに,ライトフィールドカメラのように撮影後のピント調整機能を合わせ持つカメラ技術を開発した。
具体的には,外側ほど間隔が狭くなる同心円パターンのフィルムを画像センサーの直前に置き,入射する光線が作る影に,画像処理内で同じ同心円パターンを重ね合わせると,光線の入射角に対応した間隔のモアレ縞が生じることに着目した。このモアレ縞を利用し,フーリエ変換による画像処理で撮影画像を得ることができる技術を確立した。
さらに,入射する光線がフィルムを通じて画像センサー上に作る影に重ねる同心円パターンの倍率を変えると,ピント位置を移動させることができる技術を確立しした。撮影後に倍率の異なる同心円パターンを重ね合わせて画像処理を行なうことで,自由にピントを調整することができる。
開発した技術の性能を測定するため,1cm角の画像センサーと,そこから1mm離した位置に同心円パターンのフィルムを配置して実証実験を行なった結果,標準的なノートパソコンで毎秒30フレームで動画撮影できることを確認したという。
撮影した映像からピントを合わせたい対象物を自由に選択して再生することができるため,同社は今後,このカメラ技術を,モバイル機器や車,ロボットを初めとしたあらゆるものへの適用をめざすとともに,IoT(Internet of Things)技術を基盤とした超スマート社会の実現に貢献していくとしている。